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2度世界の真逆を行く日本の温暖化政策 IPCC第3作業部会@ベルリン

石井徹 朝日新聞編集委員(環境、エネルギー)

 国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第3作業部会(WG3)が4月に公表した第5次評価報告書は、環境の激変を避けるためには、今世紀末に世界全体の排出量をゼロにする必要がある、と指摘した。現在の世界の温室効果ガス排出量は約500億トン。2020年には2割増え、その後も増え続けるという試算がある。「エネルギーなどの大きな変革があれば達成可能」という見方を示しているが、とてもできそうな気はしない。IPCCは選択肢を示し、あとは世界のリーダーたちに委ねるだけだ。希望は失いたくはないが、「絶望的な開き直り」と見えないこともない。

 だが、難しいからと言って投げ出せば、待つのは破局だ。WG3の報告書は、いま手を打てば間に合うと言っている。技術もある。ある意味で、人類は試されている。

WG3記者会見報告書を手に記者会見にのぞむIPCCのパチャウリ議長(右端)ら=4月13日、ベルリン

 国際社会は、地球温暖化による壊滅的な打撃を避けるため、世界の平均気温の上昇を18世紀半ばの産業革命前と比べて2度以内にすることに合意している。だが、世界の温室効果ガス排出量は、新興国を中心とする人口増と経済成長で増加の一途をたどり、現実との乖離は大きくなるばかりだ。報告書は、2度以内を目指すのなら、50年の排出量を10年に比べて40~70%削減、2100年にはゼロかマイナスにしないと実現できないとした。

 政策決定者向け要約ではここまでだが、報告書本体の第6章を見ると、興味深い内訳が示されている。どんな指標で削減目標に差をつけるか。「能力」「平等」「責任、能力、必要性(発展の権利)」「均等な1人あたりの累計排出量」「段階的方法」の指標に基づいて、「OECD―1990(日米欧などの先進国)」「EIT(ロシアと旧東欧)」「アジア(中国、インドなど)」「MAF(中東とアフリカ)」「LAM(中南米)」の5グループを比較しているのだ。

 

WG3報告書WG3報告書
 2度以内にとどめるためには、先進国は「能力」では2030年の排出量を10年に比べて約25~50%、「平等」では約40~60%、「責任、能力、必要性」では106~128%、「均等な1人あたり累計排出量」では約80~85%、「段階的方法」では約40~55%の削減が必要としている。先進国は最低でも約25%以上、中間値で50%以上の削減が必要ということだ。基準年、目標年ともに違うとはいえ、日本の2020年の削減目標である05年比3.8%減がいかに小さいかは分かる。

 日本は、IPCCの示す2度以内の世界とは、かけ離れた方向に進んでいる。報告書は、石炭火力発電からガス発電への転換の必要を示すが、日本では石炭火力発電を増やし続けてきた。11年度の石炭火力の発電量は2400億キロワット時で、1990年の3倍以上になっている。原発事故で増えたわけではない。東日本大震災前はもっと多かった。温暖化防止のためには、火力発電から出るCO2を回収して地下に貯留する施設「CCS」が不可欠だが、商用化のめどは立っていない。

 低炭素エネルギーの飛躍的な拡大についても、日本は原発以外の取り組みが遅れている。水力以外の再生可能エネルギーの導入量は少ない。風力発電と太陽光発電を合わせた導入率は0.9%で、世界28位だ。デンマークやドイツにはもちろん、米国やフランス、オーストラリア、トルコ、メキシコにも負けている。2012年7月の再エネによる電気の固定価格買い取り制度(FIT)の施行によって、太陽光発電が急増、再エネ全体もようやく上向きになってきた。すかさず電力業界に近い政財界の一部から「FIT不要論」が出てくるお粗末ぶりである。

シナリオ
 日本にとっての最大関心事の一つは、原発の書きぶりだった。政策決定者向け要約では「成熟した温室効果ガス排出の少ないベースロード電源だが、世界における発電シェアは1993年以降低下している」とされた。「原子力の低炭素エネルギー供給への原子力の貢献は増す可能性があるものの、様々な障壁とリスクが存在する」として、「運転リスクと関連する懸念、ウラン採掘リスク、金融と規制のリスク、未解決の廃棄物管理問題、核兵器拡散の懸念、反対世論」を挙げた。障壁とリスクのオンパレードである。
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