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漂流するポスト3.11〜 「反原発」のイメージ一変を決定づけた「大飯原発再稼働みとめず」判決

下條信輔 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授

この記事は、2014年5月20日付の朝日新聞紙面をはじめとした、吉田調書に関する報道に基づいたものです。この報道については、こちらをご覧ください。(2014年9月11日 WEBRONZA編集部追記)

 福島原発事故は、複数の原発が同時に危機に陥る未曽有の原発災害だった。後に判明したところでは、実際にメルトダウン(燃料溶融)し、さらにはメルトスルー(圧力容器の底を貫通)までしていた。これだけの危機を経験して、さて日本のポスト3.11はどうなったか。まずは関連情報が公開され、原因と責任が徹底究明されて、今後を決めるのはそれから・・・というのが常識だろうが、現実はそうなっていない。

 丸3年以上経過した現在も、政府・電力会社は情報公開を渋りながらひたすら再稼働に走り、それに拮抗(きっこう)するはずの世論の方が解体、あるいは思考停止してしまった感がある。ここへきて立て続けにさまざまな動きがあったので、まとめながら大局的に捉え返してみたい。

 まず測定用井戸で、放射性物質の濃度最高値を繰り返し更新(5月12日)、汚染を「完全にブロックしている」はずの湾外でも汚染濃度倍増(5月16日)、(5月20日)、 格納容器につながる配管からの汚染水漏出(5月27日)、海に放水する地下水の汲み上げ井戸でも再度汚染(5月27日、以上いずれも東電発表)等々。汚染拡大の実態が小出しに明らかになった。ここ3週間に限ってもこれだけのニュースだ。

放射性物質除去装置ALPS(アルプス)

 またポンプの誤操作で建屋に汚染水を大量に流入させてしまったり(事故は3月20日、調査結果発表は5月3日)、多核種除去設備(ALPS)では一時3系統全てが故障で停止したり(5月20日、東電発表)など、 機器の誤操作や故障も相次いだ。

 それらも含め、事故の後処理が総じてうまく行っていない。避難区域の恣意的な境界線設定が、地域に利害対立やアイデンティティーの分断をもたらしていることは、早くから指摘されてきた。汚染物の中間貯蔵施設についても、安全対策として地下水のセシウム濃度モニタリングを追加するなど、環境省は修正案で実現を目指している。だが前途は多難だ。とりわけ「30年以内に汚染土などを県外で最終処分する」政府方針について、その場所に具体的なアテがないことに地元は不安を募らせている(6月1日、朝日デジタル)。

 さらに核のゴミ処理やリサイクル計画がうまく行っていない。イギリスなど海外に処理を頼っているが、その処理費が当初(1995年)から約3倍に高騰した(5月26日、朝日デジタル)。現時点で処理済みのガラス固化体がまだ英国に640本あり、現在すでに1本当たりコストが1.3億円という。再稼働すればさらに増え続ける理屈だから、電力料金を圧迫することは避けられない。

 原発過酷事故のシミュレーションも盛んに行われ、事故後の対策も検討されている。だが具体的に考えるほど、難しさが浮き彫りになる。特に住民の避難対策では、交通渋滞などがボトルネックとなる。現実に複合災害に対処するのは「極めて困難」とする意見が、自治体当事者からも出ている(5月24日、共同)。

 粗雑な言い方だが、原発政策の将来は「八方塞がり」と言うしかない。

 安倍内閣がエネルギー計画の策定(4月)に先立って、パブリックコメント(国民からの意見)を募集した。集まった意見のうち9割超 が「脱原発」だったそうだが(5月25日、朝日デジタル)、当然だろう。それなのに一昨年末の総選挙では原発推進派が「圧勝した」とされ、世論が政策に反映されない状況が続いている。

 そういう混迷の中で、いくつか注目すべき動きがあった。3点に絞って振り返っておこう。

大飯原発運転差し止めを命じる判決を支援者らに伝える、原告団の弁護士ら=4月21日午後3時過ぎ、福井市の福井地裁前、山本正樹撮影

 第一に、

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