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【米国宇宙開発最前線】民間宇宙開発の時代における国の役割とは?

小野雅裕 米航空宇宙局(NASA)ジェット推進研究所研究員

 今回よりWEBRONZA記事を執筆させていただくことになった。僕はロサンゼルス近郊にある米航空宇宙局(NASA)ジェット推進研究所(JPL)のResearch Technologistである。研究者、技術者の視点から、主に宇宙開発のトピックについて論じていきたいと思う。
 なお、WEBRONZAで述べる意見は全て僕個人のものであり、所属組織の意見を代表するものでは決してないことを断っておく。

 ここ数年の宇宙開発で最もホットなトピックのひとつは、民間、とりわけベンチャー企業による宇宙開発の急速な発展だろう。

 たとえば、オンライン決済システムPayPalや、電気自動車ベンチャーのTesla Motorsで成功したElon Musk率いるSpaceXは、創業からたった8年のうちに日本のH2-Aロケットに匹敵する打ち上げ能力を持つFalcon 9ロケットを独力で開発した。国や民間の衛星打ち上げを数多く受注すると共に、国際宇宙ステーション(ISS)への物資輸送もNASAから委託されている。さらに、近い将来には有人の宇宙船を開発し、ISSへの人員輸送も担う予定である。

 スタンフォード大学の授業の中で生まれたアイデアから始まったベンチャー、Skybox Imagingは、小型人工衛星を24機打ち上げ、地球上のあらゆる場所の衛星画像をユーザーの要求に応じて撮ることができるサービスを提供する予定である。ついこの6月に、Googleに5億ドルで買収されたことでも話題になった。そして日本でも、大学発の超小型人工衛星ベンチャー・アクセルスペースが、昨年11月に初の人工衛星を打ち上げたばかりである。

 ほんのしばらく前まで宇宙開発とは、NASAや宇宙航空研究開発機構(JAXA)のような国の機関のみが行う、一般市民からは縁遠い事業だと思われていた。その壁をこれらのベンチャー企業は打ち壊した。宇宙開発が新しい時代に入ったといっても過言ではなかろう。彼らの活躍は真に素晴らしいものである。今後も民間宇宙開発のますますの発展を期待したい。

 ただ一方で、少しだけ心配な点もある。僕の考えすぎかもしれない。だが、ひとつの論がはやると、みんな同じことを言い出すのが日本人の悪い癖である。起業がもてはやされる一方、国の事業は何かと不人気なこの時代にあって、こんな論が出て来やしまいかと心配するのだ。「もはや国が税金を使って宇宙開発を行う時代は終わった」と。

 もしそのような論を唱える者がいるならば、僕はそれに強く反論する。たしかに、民間にもできること―つまりビジネスとして成立する、もっと平たく言えば、儲けになることは、民間に任せるべきだと思う。物資や人員の運搬(つまりロケットの打ち上げ)、通信・放送、リモート・センシング(つまり衛星写真の提供)などがそれに当たるだろう。

 だが、金儲けにはならなくてもやらねばならぬことが世の中にはある。それをやるのが、国の役目である。

小惑星探査機「はやぶさ」の模型

 たとえば、小惑星探査機「はやぶさ」に対する国民の熱狂は記憶に新しいだろう。はやぶさは世界ではじめて小惑星から砂の微粒子を持ち帰ることに成功した。その殆どは顕微鏡でなくては見えないほどの小さな砂粒である。それでも、人類が無人探査機で 他の天体の地表のサンプルを持ち帰るのは、1976年のソ連による月からのサンプルリターン以来の快挙だった(彗星から噴出するダストのサンプルならば、JPLのスターダストという探査機が2006年に地球に持ち帰っている)。そのため、僕が勤めるNASA JPLにおいても、はやぶさの偉業は広く認知され、賞賛されている。

 はやぶさの価値は、

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