〜 カルテック学長就任式の豪華さに思う
2014年12月04日
10月24日、カリフォルニア工科大学(カルテック)9代目新学長の就任式がにぎにぎしく行われ、筆者も参列した。
学長就任式に参加したのは初めてだったので、その規模の大きさと華やかさに驚いた。その様子はあまり日本では知られていないと思う。また最近日本では、京大総長選の経緯が話題になっていた(今年7月)ので、その選考方法や学長の「機能」の違いにも注意を払いながら、リポートしてみよう。
南カリフォルニアの天候のお陰で、カルテックでは卒業式も含めて式典は基本、芝生に舞台と椅子を並べて行われる。ところがその恵まれ過ぎた天候のせいで、舞台上に座るゲストや教授陣は炎熱地獄にさらされる。例年6月の卒業式だけではなく、今回10月末の就任式典でも同じだった。写真1は、舞台最前列のノーベル賞受賞者や理事たちが、顔を懸命に隠しているように見えて珍妙だ。だが実は配られた「うちわ」で、強烈な日差しを避けている(筆者も後列で暑さに耐えていた)。
参列者のカラフルなフード(頭巾)/ガウンが、目を引く。その色や模様は、それぞれの出身大学だけでなく、専門分野や学位のレベル(修士/博士)も示している(写真2)。
カルテックオーケストラの演奏を挟んで式は進行し、伝統にのっとって理事長 (Board of Trustees chair) から、新学長 T.ローゼンバウム博士(Dr. Thomas F. Rosenbaum) に「ミリカンの博士フード」が授与された(写真3)。ミリカン(R.A. Millikan)はカルテック最初のノーベル賞受賞者(物理学)で、2代目学長 (1921 - 45)。カルテックをトップの大学に押し上げた「中興の祖」として尊敬されている。
続いて新学長は就任演説で自らの生い立ちとともにカルテックの果たした歴史的役割にふれ、次のように格調高く宣言した。「優秀さ、野心、集中、親密さ、そして展望—この5つを結集することは激動の時代にはとりわけ困難だ。だがそれによって知性のマジックを起こせる」と。
式典後はキャンパスの中心部が参加自由のパーティー会場と化すなど、関連行事は終日続いた。日が暮れると巨大な特設テントで、公式晩餐(ばんさん)会が催された。学内全教授や理事連とそのパートナー、米国主要10大学からの代表などが招待を受け、数百人が参加した。
元、前学長らの歓迎スピーチや、カルテックの沿革/歴史を示すスライドショーも興味深かったが、6つある学部の学部長から新学長に贈呈された贈り物がそれぞれ工夫を凝らしたユーモアのあるもので、とくに印象に残った。筆者が所属する生物・生物工学部の学部長S.メイヨー博士 (Dr. S. Mayo) からの贈り物は、なんと「ハエ」の模型。「わが生物学部の実績と伝統を、何かひとつで代表させるとしたら、これしかない」というコメントがついた(ショウジョウバエによる遺伝子研究を念頭に置いている、念のため)。
という訳でカルテックの就任式は、想像以上にカラフルで豪華だった。トータルでどれだけのコストと準備を要したのか、想像もつかない。だが(新学長も述べていた通り)大学コミュニティーの誇りとアイデンティティーを確認する象徴的セレモニーとしては、おおいに成功していると感じた。事務職員や学部学生たちまでが、ハレの日に輝いた顔をしているのが印象的だった。
日本の大学での就任セレモニーはよく知らないが、ここまでの規模と象徴性を持たせる例は少ないだろう。
120年余のカルテックの歴史の中で、今回の新学長はまだ9代目だ。平均在位期間が長く、理事会と密接に組んだ実権を持って、実質的に大学の進路を決めて来たと言える。これに対し日本の大学はたいてい4〜5年任期で、再選は事実上あり得ないところが多いのではないか。
歴代学長のリストを見ると、
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