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認知バイアスはカネになる。のだが。(上)

摩訶不思議な広告惹句が氾濫するからくり

下條信輔 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授

 認知バイアスはカネになる。これが現代社会を席巻するマーケティングの基本原理だ。ただし、急いで「のだが」と付け加えなくてはならない一面もある。潜在マーケティングとその提起する問題については、本欄でもたびたび書いてきた(たとえば「続・佐村河内事件は何を提起しているか~人々は何に金を払ったのか?」)。がそれを中心に議論したことはあまりない。最近その必要を感じる機会が多いので、ここらでまとめて検討しておきたい。

滋養強壮剤の摩訶不思議

 突然だが、次のリストを見て何を連想されるだろうか。

ニンジン流エキス
オウセイ流エキス
ゴオウ
L-アルギニン酸
カルニチン塩化物

 駅の売店や薬局、コンビニなどに並んでいる「滋養強壮剤」の成分のうち、特に宣伝で強調されているものを挙げてみた。それぞれどういう組成でどのような症状にどう効くか、的確に言い当てられる読者が何人いるだろう(薬剤師や漢方医は別だが)。素人でも何となくわかりそうなのは「ニンジン流エキス」ぐらいで、それも本当は何も理解していないことに気づくだろう。何を隠そう筆者も同じレベルだ。

今やコンビニでも定番商品になった「滋養強壮剤」

 さらに「8種類の生薬成分」「10種の有効成分」など束にしてアピールするものも多い。その中身を見ると、ニクジュヨウエキス、トシン流エキス、シベット、インヨウカクなど、いよいよおどろおどろしい名前が並んでいる。だが調べてみると薬効のほど定かでないものも多い。たとえばシベットは別名「霊猫香」で、古来媚薬(びやく)や香水として使われているが(ウィキペディア他)、なぜここに有効成分として入っているか不明だ。

 これらが有効成分としてCMや広告、パッケージで大々的に宣伝されている。そして多くの(疲れ気味の)消費者が、なんとなく習慣的に買ってしまう。高価なものになると3千円ぐらいまであるらしい。だがこれらの成分は本当に効いているのだろうか。

即効性と誤帰属

 薬理学者によれば、これらの成分(特に漢方成分)が一回の飲用で著効を発揮することは、まずないという。もともと漢方はある程度以上の量を持続的に服用しなければ、効き目がない。滋養ドリンク1本に入っているのは、そもそも微量すぎる。それなのに何故「効く」のか。

 それは主に即効成分、とりわけアルコールとカフェインが入っているからに過ぎない。たとえばS製薬のロングセラー「Y液」シリーズ見ると、そのラインアップは40種類近く出ていて、医薬品(第2類)もあれば、医薬部外品もある。ただおしなべて、価格が数百円から千円、2千円と上がるにつれ、ほぼそれに比例してアルコールやカフェインの含有量が増えている。

 にわかに信じ難いので筆者自身が薬局の店頭で確認したが、おおよそその通りだった。「OC」や「RD」など他社の滋養強壮剤ベストセラーも大差ない。飲めば

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