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未来の自動運転は自動でやって来るわけではない

これからの技術革新は、私たちにも進化を迫る

山下哲也 エバンジェリスト、山下計画(株) 代表取締役CEO

 インターネットやスマートフォンに代表される情報通信技術(IT)の革新。「ケータイ」からスマートフォンへの変化一つを見ても、その進化は劇的だ。例えば、多くの人が何気なく手にするスマートフォンの性能は、巨大な冷蔵庫並みの大きさであった90年代のスーパーコンピューターを凌駕している。

 ノートパソコンやタブレットなど様々なポータブル機器を含めると、現在世界で稼働するモバイルデバイスは80億台に達し、社会全体にITが浸透したかのようにも思えるが、実はまだ、変革のほんの入口に立ったに過ぎない。猛烈な技術進化とあらゆる情報のデジタル化が生み出す革新は、人類史上空前の、決定的な転換点になりうるインパクトを秘めている。

自動運転するGoogle Driving Car=2012年11月米国 Mountain Viewで筆者撮影

 Apple Watchのような身につける「ウェアラブル」や、Googleの自動運転車といったIT進化の果てには何が待ち受けているのか。昨年あたりから急速に注目を集める「IoT (Internet of Things)」、あらゆるものがインターネットにつながる世界は、はたしてどのような革新をもたらすのか。

 現在の技術革新のベクトルから垣間見える未来像について、これから紹介していきたい。

 まずは、未来の機械は単に便利さをもたらすのではなく、私たち人間にどのような進化を迫るかについて。ともすると、次々に登場する革新的な技術や製品にばかりどうしても目が行きがちだが、これからの技術革新の本質は、使い手である人間自身にも進化を迫っていることをお伝えしたい。

製品はますます複雑化、操作はますます簡単化

 産業革命以降に登場し私たちの社会を大きく変えた工業製品の多くは、技術進化と共にますます複雑になる一方、その操作はどんどん単純化されてきた。例えば自動車の場合、50年以上前はエンジン始動の際に複雑な手順と微妙なチョーク操作が必要だったが、今では誰でもボタンを押すだけで簡単に始動させることができる。

 現代の自動車では、エンジン制御のための専用コンピューターであるエンジンコントロールユニット(ECU)が搭載され、運転状況に応じた燃費や排気ガスの自動最適制御が当たり前となってしまった。ハイブリット車や電気自動車の場合、モーターや電力回生ブレーキ、クラッチ制御まで自動化されている。ドライバーは車を運転するとき、その構造や制御ロジックを理解する必要は全くない。

 最新の自動車の多くには、障害物を検知して自動で停止する自動緊急ブレーキ(AEB)も搭載されている。こうした複雑かつ高度な自動制御装置により、今の車は誰でも簡単かつ安全に運転することが可能となっている。

 技術や構造が複雑化する半面、操作がますます簡単になるという傾向は、コンピューターの世界でも同様だ。初期のコンピューターでは、複雑な命令文(コマンド)を打ち込む必要があったものが、グラフィカル・ユーザー・インターフェース(GUI)の実用化により、コマンドを覚えなくても操作可能となり、パソコン普及の大きな原動力となった。

 さらにスマートフォンやタブレットでは、画面を指で触ることで操作できるタッチインターフェースが標準となったことで、より直感的な操作が可能となっている。最新のコンピューティング・デバイスの内部では、どれも非常に複雑なメモリー管理やタスク制御を行っているが、それらブラックボックスの中身を知らなくても、一般的な操作には何ら問題がない。

これからの技術革新は、これまでとは全く異質

 上に挙げた自動車とパソコンの例に見られるように、これまでの技術進化に共通していたのは、より高度で複雑な構造を実現することで、使う人がそれを意識することなく、誰でもより簡単に操作できる環境を実現する試みであったと言えよう。

 この世界では、基本的な社会構造やルールはそのままで良かった。しかし、これからの

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