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日本に追いつき、追い越す韓国の科学技術政策

20年遅れのスタートで全力疾走してきた歴史を俯瞰する

高橋真理子 ジャーナリスト、元朝日新聞科学コーディネーター

 韓国の東側に位置する鉄鋼のまち浦項市にある浦項工科大学(ポステク)は、英国の教育専門誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション」による創立50年未満大学のランキングで3年連続世界1位となった大学である。1400人余りの学部学生、2100人余りの大学院生が学ぶ。

ポステクの入り口近くにあるモニュメント
ポステクの中庭。訪れたのは6月12日、学生の姿があまり見えなかったが、建物の中で講義を受けたり実験したりしていると説明を受けた。女子学生の割合は約25%だという。

 コンパクトにまとまったメインキャンパスには、訪学したノーベル賞学者が植樹した「ノーベルガーデン」がある。中庭にはアインシュタインやニュートンの胸像が並び、その一角にある胸像抜きの台は未来の韓国人ノーベル賞学者のために用意されたという。韓国にはノーベル科学3賞の受賞者はまだいない。どれほど受賞を熱望しているか、こんなところからも伺い知れる。

韓国人ノーベル賞学者のために用意された台の説明版に、まだ誰だかわからないからと「?」が入っていることを説明するポステク(浦項工科大学)対外協力処長のハ・ヨンイさん

 6月に第9回科学ジャーナリスト世界会議のために韓国を訪問して、韓国の科学技術は日本を20年遅れで追いかけているのだと実感した。技術先進国となった韓国が、中国の猛追を恐れている構図も、日本がすでに経験してきたことに似る。だが、大統領制をとる韓国は、日本より「とんがった政策」を取ることができる。国際化や女性研究者支援、情報通信技術(ICT)の活用といった面では日本より先を行き、そうした政策がサムスンなどの韓国企業の躍進を支えてきた。ノーベル科学3賞の受賞者こそ19人を数える日本だが、朝鮮戦争終了後から必死に科学技術立国を目指してきた韓国の努力を知ることも、未来を考えるうえで必要だと思う。

 日本が1945年の敗戦でゼロから再スタートしたのに対し、韓国の戦後復興の本格化は朴正熙大統領(現朴槿恵大統領の父)が就任した63年からである。50年から53年までの朝鮮戦争で全土が戦場となった朝鮮半島は、ゼロからというよりマイナスからのスタートだったと言えよう。その後に高度経済成長を経験し、96年には経済協力開発機構(OECD)入りを果たした(日本のOECD加盟は64年。朝鮮戦争による「朝鮮特需」が日本の経済成長を促したからこその早期加盟だったことを日本人は忘れてはいけないと思う)。

 韓国では貧しい時代から科学技術に資金を投じてきたと、関係者はみな誇らしく語る。現在の科学技術投資は金額ベースで世界6位(1位は米国、2位日本、3位中国)で、対GDP比率では世界1位(日本は世界3位。2位はイスラエル)である。

 2013年に発足した朴槿恵政権は「創造経済」という新しいコンセプトを打ち出し、

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