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重力波の直接観測で宇宙の新しい窓が開いた

アインシュタインの予言から100周年、構想開始40年の快挙

大栗博司 東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構長 、 カリフォルニア工科大学教授 ・理論物理学研究所所長

記者会見の生中継室は満員

 カリフォルニア時間で2月11日朝、私たちはカリフォルニア工科大学(Caltech)の講義室に集まった。ワシントンDCの全米記者クラブで開かれる記者会見の生中継を見るためである。「重力波観測の進捗状況の報告のための、研究チームの共同記者会見」とだけ連絡があったのだが、数週間前から「重力波が観測された」という噂が飛び交っていた。Caltechのキャンパスでは、3つの講義室で記者会見の生中継が流されることになっていたが、どこも満員だ。

生中継を見るイベントに集まったLIGO関係者=カリフォルニア工科大学、筆者撮影

 今年は、アルベルト・アインシュタインが重力波を予言してちょうど100周年の記念の年である。重い物体は、その周りに重力の影響をおよぼす。このような物体が激しく運動すれば、重力が変化して、波となって伝わっていく。これが重力波である。アインシュタインは、1915年11月に一般相対性理論を発表し、重力の方程式を明らかにした。そして16年に、この理論を使って重力波の存在を予言する論文を発表している。

 重力波の存在は、間接的には、すでに確認されている。米国の天体物理学者ラッセル・ハルスとジョセフ・テイラーは、二つの星がお互いの周りを回る連星の様子を観測した。連星は、回転しながら重力波を放出するので、その分のエネルギーを失う。それに伴う回転の周期の変化を、アインシュタイン理論で計算したところ、観測結果と見事に一致したのだ。この発見は重力波の間接的な証拠となり、ハルスとテイラーは93年のノーベル物理学賞を受賞している。そこで、次なる課題は、重力波の直接観測であった。

 全米科学財団(NSF)の会見会場には、Caltechのキップ・ソーン名誉教授、マサチューセッツ工科大学(MIT)のライナー・ワイス名誉教授など、LIGO実験の指導者が並んでいる。重力波検出の基礎となる技術を開発したCaltechのロナルド・ドレーバー名誉教授が、体調不良のため参加できなかったことは残念だ。

1970年代からレーザーを使った検出を構想

 LIGOとは「Laser Interferometer Gravitational-Wave Observatory(レーザー干渉型重力波天文台)」の略である。CaltechとMITが共同運営しており、その本部はCaltechにある。4キロメートル程度の直交するトンネル2本からなり、その中をレーザー光が走っている。重力波が通り過ぎるときに、空間の性質が変化し、トンネルの長さが変わるのを、レーザー光の干渉で測るという仕組みである。

 60年代にメリーランド大学のジョセフ・ウェーバーは長さ2メートルの金属の棒の伸び縮みで重力波を検出しようとしたが、精度が足りなかった。そこで、MITのワイスはレーザー干渉計で長さの変化を測ることを提案し、72年には、数キロメートルの干渉計による検出精度を見積もる論文を発表している。同じころ重力波検出の方法を探っていたソーンも、レーザー干渉計による観測が実現可能であると確信し、Caltechでの研究を推進した。グラスゴー大学でレーザー干渉計の研究を行っていたドレーバーをCaltechに招聘したのもソーンである。

 そして、79年に、CaltechとMITが共同提案した「重力波の検出を目指すレーザー干渉計の研究開発」に対し、NSFの予算がついた。83年にはCaltechのキャンパスに長さ40メートルの干渉計が建設され、今日に至るまで技術開発で中心的役割を果たしている。90年、NSFはLIGO建設を採択。92年には、ワシントン州のハンフォードとルイジアナ州のリビングストンの2カ所に重力波検出装置が建設されることになった。同じ装置を2台作り、独立に観測を行うことで、信頼度を高めるためである。総予算は約1300億円で、NSF史上最大のプロジェクトである。

ワシントン州ハンフォードの重力波検出装置
ルイジアナ州リビングストンの重力波検出装置

 初代のLIGOは99年に完成し、2005年には計画通りの精度で観測ができるようになった。10年には「発見か?」という騒ぎもあった。しかし、

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