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学術会議会長としての金沢一郎さんを偲ぶ

20本の会長談話から見えてくる「社会と切り結ぶ」姿勢

高橋真理子 ジャーナリスト、元朝日新聞科学コーディネーター

 2016年1月に膵臓がんで亡くなった前皇室医務主管金沢一郎さんの追悼文を2月27日付朝日新聞夕刊「惜別」欄に書いた。新聞の限られた紙幅の中では日本学術会議会長としての功績に触れることができなかったので、改めてWEBRONZAでその点にしぼって業績を振り返りたい。

「あるある大事典」の納豆騒動に素早く反応

 金沢さんは東大医学部教授から2002年に国立精神・神経センター神経研究所長に転じ、この年に皇室医務主管となった。翌年、国立精神・神経センター総長に。総長任期中の06年に日本学術会議会長に選ばれた。皇室医務主管の仕事は12年まで続いたので、しばらく「3足のわらじ」を履いていたことになる。

日本学術会議会長の就任会見=2006年10月2日、遠藤真梨撮影

 5年間の会長任期中に20本の会長談話/会長コメントを出した。前任(03~06年)の黒川清さんが18本だから、数として多いわけではない。だが、その中身を見ると、随所に金沢さんらしさを感じる。とくに、学術行政や科学者のあり方への提言にとどまらず、社会と直接対話する姿勢を出した点が際立つ。

 着任4カ月目に出した談話は「テレビ番組等における『科学的』実験について」だった。

 覚えておられるだろうか、フジテレビ系のテレビ番組「発掘!あるある大事典Ⅱ」で、納豆にダイエット効果があるとして紹介された数々のデータが根拠のないものだった事件を。制作した関西テレビ社長が謝罪したのが07年1月20日。会長談話が出たのが1月26日である。

 ニュースの余波がまだまだ大きく続く中で、「科学に精通した人材による実験計画の策定と実施」を求める談話を出したのだった。科学者の不正防止のため前年に学術会議がまとめた行動規範を「テレビ番組等における科学実験の計画・実施に関わる者も、当然、守るべきものである」と位置づけもした。

食品安全委の委員人事不同意に異議申し立て

 09年に牛海綿状脳症(BSE)対策をめぐって食品安全委員会の委員人事が国会で同意されなかったときには、「食品安全のための科学に関する会長談話」を発表した。

 輸入禁止となっていた米国産牛肉について、食品安全委員会の答申を受けて政府は輸入再開を決めた。その直後に禁止部位の混入が見つかるなどしたため、民主党などが「輸入再開に事実上のお墨付きを与えた重大な責任」があるとして、吉川泰弘東大大学院教授の委員就任に同意を与えなかった。このときの会長談話は概略、次のようなものだ。

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