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10年後に医者は失業し、看護師は失業しない

ノロウイルス感染で入院して確信したこと

湯之上隆 コンサルタント(技術経営)、元半導体技術者

 都立小児総合医療センター(府中市)でノロウイルスの院内感染が発生、3月18日までに生後2か月~10歳の入院患者10人が感染し、うち2歳男児が死亡したと東京都が発表した。

 実は私も、2月にノロウイルスに感染して丸々1週間入院し、大変苦しい思いをした。その時、「10年後に医者は失業するが看護師の仕事はなくならない」と確信するに至った。以下に詳述したい。

突然嘔吐と下痢の発作に襲われる

 2月8日の15時過ぎ。ちょうど、WEBRONZAの「シャープ買収の行方を占う」の原稿を書き終えた直後に、突然、激しい嘔吐と下痢の発作に襲われた。その発作は30分~1時間おきに断続的やってきたため、私はトイレの前に毛布にくるまって動けなくなってしまった。21時ごろ、仕事から帰宅した家内は私の衰弱ぶりに驚き、救急病院に搬送した。

 病院に着いたとき、もはや私は自力で歩けない状態で、生まれて初めて車椅子のお世話になった。そして当直医の元に連れていかれ、症状を説明しようとしたとき臨界点を超え、医者の前で盛大に吐いてしまった。

 このアピール(?)が効いてしまったため、その場で即、入院が決まった。これも生まれて初めてのことだ。霞む記憶の中で、「もしかしたらノロウイルスかもしれない。脱水症状を起こしかけている。このまま放置すると脳梗塞になるかもしれない」という恐ろしげな医者の声が聞こえてきた。

 私は隔離病棟の個室に入れられ、面会謝絶となった。そして、翌日の検査により、予想通り「ノロウイルスに感染」と診断された。その結果、丸々1週間の入院を余儀なくされた。

ノロウイルスとは

 ノロは、そのウイルスを口から吸入することによって伝染する。感染した人の吐瀉物や便には数十億個のノロウイルスが含まれていて、そのうち、わずか10~100個ほどを吸い込むと容易に感染するという。

 厄介なのは、ノロウイルスが熱にも乾燥にも強いことである。私は、自宅から病院に搬送されるまでの間に、我慢できずに道端に3回吐いてしまったが、これによって新たなノロ感染者を生み出してしまったかもしれない。誠に申し訳ないと思う。

 ノロに感染しないためには、ウイルスを吸い込まないようにするしかない。そのためには、基本的なことだけれど、手洗いとうがいの励行しか対策はないようだ。

 潜伏期間は24~48時間。私は、2月8日の15時ごろ発症したから、6日の15時以降に、どこかで10個以上のノロウイルスを吸引してしまったわけである。

身体と精神状態は反比例

 入院の翌日には、抗生物質の点滴が効いたのか、吐き気は治まった。しかし、下痢は続いており、点滴の袋をつるしたスタンドをガラガラ引いて、1時間に1回程度、ベッドとトイレの往復をしていた。入院から3日もすると、トイレに行く回数が減ってきた。それと共に、水のようだった便も軟便になってきた。どうやら、ヒドイ症状のピークは超えたと思われた。

 しかし、身体が回復に向かうのとは反比例して、精神状態は悪化していった。というのは、私はコンサルタントや記事の執筆を仕事とする自営業者である。会社員と違って休業補償も有給休暇も何もない。入院している間は、収入が一銭もないのである。

 仕事の予定や締め切りは、電話(本当は禁止)や携帯のショートメールで連絡して延期してもらうしかなかった。入院直前に書いたWEBRONZAの原稿のゲラ直しも、こっそり電話して対応した。自分としては、そろそろ点滴を外してもらって、退院に向けて準備をしたかった。

 しかし、気が付いてみたら、なぜか主治医は一度も回診に来ていない。看護師が時々様子を見にやって来るので、「何か食べたい」「そろそろ退院したい」ことを訴えるが、「それを判断するのは私ではない」と言われる。

 私は、仕事が切迫していることに焦り始めていた。そのような中、私の頭に浮かんでいたのは、

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