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飲料水の安全をめぐる沖縄の苦闘

県民の健康は、県民自らが守るしかない現実

桜井国俊 沖縄大学名誉教授、沖縄環境ネットワーク世話人

 中国には「南水北調」という言葉がある。

 中国第一の河川である黄河では、上流域での過剰な灌漑(かんがい)事業などにより近年下流に水がなくなる「黄河断流」という現象が頻発し、南の長江(揚子江)の水を北の黄河に運ぶ大土木工事が進められている。これを「南水北調」と呼ぶのである。

 沖縄では逆に「北水南調」となる。沖縄島の南部には県都那覇市などに人口が密集しているが、水源になる清浄な河川は乏しい。そこで北部のやんばるに多くのダムを建設し、そこで取水した水を南部に運んでいるのだ。県民の貴重な水がめである。

ヘリパッド建設のために次々と砂利が運び込まれている=2016年9月27日、沖縄県東村高江ヘリパッド建設のために次々と砂利が運び込まれている=2016年9月27日、沖縄県東村高

 そのダムの一つ、新川ダム周辺で、いま沖縄防衛局が、高江のヘリパッド建設を強行している。米側への提供を急ぐあまり環境への配慮は二の次であり、やんばるの森の中に1日に200メートル近くも工事用道路が伐開されているのが小型無人機ドローンから撮影した写真で確認されている。

 外からは見えない、立ち入れないと思ってやりたい放題である。沖縄では、公共工事の際に赤土等流出防止条例の遵守が求められているが、まともに赤土対策をやっていたら、こんなに早く工事を進められるはずがない。強い雨が降ると真っ赤な水がダムや海に流出し、沖縄島の多くの人々の飲料水源を汚染し、サンゴを窒息させている。

水源に12000発を投棄

 首都東京の水源地で、基地の建設や軍事演習が行われ、都民の飲料水源が汚染される事態を想像してみて欲しい。やんばるで今起きている事態の異常さがわかるはずである。東京で許されないことは、沖縄でも許されないはずだ。しかし沖縄では、最重要のはずの飲料水の安全を脅かす事態が頻発している。

 県民の記憶に新しいところでも、次のような事件があった。

高江のヘリパッド移設先高江のヘリパッド移設先

  まず、2007年1月に発覚した米兵によるダムへの弾薬類投棄事件である。米軍北部訓練場に隣接する福地ダム、新川ダムに、訓練で余ったペイント弾、照明弾、手投げ弾など12000発以上もの弾薬類が投棄されていたのである。訓練で疲れ切った米兵の目には、貴重なやんばるの自然の保全も、県民の飲料水源の保護も二の次、三の次なのである。

 当時の翁長雄志那覇市長は、ブッシュ米大統領あてに「飲料水が汚染される可能性が常態的に存在することは、私たちの身体、生命の安全が常に脅かされているということであり、到底受け入れられない」という内容の要望書を送った。本来、日本政府が抗議すべき筋合いのものだが、

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