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ビタミン剤は体にいいことは何もない!

医学専門誌に掲載された「常習摂取への警告」

唐木英明 東京大学名誉教授、公益財団法人「食の安全・安心財団」理事長

 水素水について、健康にいいことを示す信頼性が高い科学的なデータがないと国立健康・栄養研究所が発表し、健康を保持増進させる効果がないと国民生活センターが発表するなど、水素水が活性酸素を減らして健康を維持するという話にレッドカードが突き付けられた。健康について信じられている話が間違いだった例は珍しくないが、さすがに「ビタミン剤には健康上の有効性は何もないだけでなく、むしろ有害である可能性がある」という科学論文の結論は衝撃的だった。

医薬品が大衆薬へ変身

 この論文は2013年12月にAnnals of Internal Medicine(内科紀要)という医学雑誌に掲載された 。これまで何年間もビタミン剤を飲み続けた人たちと飲んでいなかった人たちの健康状態を比較した多くの論文を集めて、その内容を検証したもので、科学的な信頼度は高い。あらためて考えてみると「ビタミンは体にいいから毎日飲んだ方がいい」という「ビタミン神話」には科学的根拠が不足していた。

 そもそもビタミンは病気の治療薬だった。ビタミンBは脚気の、ビタミンCは壊血病の特効薬であることはよく知られている。医薬品であるビタミンが処方箋なしに誰でも薬局で購入できる大衆薬に変身したきっかけは、1953年と54年に発売された総合ビタミン剤「ポポンS」とビタミンB1製剤「アリナミン」だった。これらはビタミン不足を解消して病気を予防することが目的だったのだが、次第に疲労回復や体力増進などに有効と信じられるようになり、病人ではなく健康な人が飲むようになった。その後、1957年にアンプル入りのビタミン剤がドリンク剤として発売され、1960年にはボトル入りのドリンク剤が売り出されて薬品が清涼飲料水感覚で飲まれるようになり、現在は健康食品としても販売されている。

ノーベル学者がブームの立役者に

 ビタミン剤とドリンク剤がブームになったのは1964年の東京オリンピックの影響といわれる。当時の日本人に比べて背が高く、立派な体格の米国選手が次々と金メダルを獲得し、日本人は米ばかり食べているから体力がつかないという説が広がって、子どもに「ご飯は残してもいいからおかずは全部食べなさい」という教育が行われたことを筆者も覚えている。また米国選手はビタミン剤を飲んでいるから健康で体力があるといううわさも広まった。こうして「ビタミンは体にいい」という神話が出来上がり、多くの健康な人が本来医薬品であるビタミンを日常的に飲むようになった。

1982年秋にもブームが再来。医薬品よりも「食べるビタミン」として、CとEを中心に人気になった

 ビタミンブームは日本だけではない。米国でのブームの立役者はノーベル化学賞と平和賞をダブル受賞したポーリング博士だった。博士は1970年に多量のビタミンCは風邪の予防と治療に有効と発表し、1979年にはがんにも有効と言って多くの信者を作った。成人のビタミンCの推奨量は0.1グラムなのだが、博士は毎日12グラム、風邪をひいたときには40グラムも飲んでいたという。もちろんビタミンCにそのような効果がないことは科学的に証明されているのだがノーベル賞受賞者の影響は大きく、健康のためと信じてビタミンを飲み続ける人が増え、米国では40%の人が各種のビタミン剤を摂取しているという。

大がかりな調査の結果…

 多くの人が長年にわたってビタミン剤を飲み続けたのでその効果を検証できるようになり、その成果が次々と発表された。2005年にはビタミンEを飲み続けた13万人以上を調査した結果、飲まなかった人に比べて死亡率が高いことが分かった。3万人以上を対象にした研究で2008年にはビタミンEが前立腺がんを増やすことが分かった。ビタミンEは活性酸素を減らすからがんを減らすはずだと信じられていたのだが、

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