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続・福島の放射線の量を正しく理解してほしい

高校生たちと一緒に、福島第一原発の廃炉作業を視察した思いとは

早野龍五 東京大学教授

 東京大学教授の早野龍五さんが取り組んだ活動には、福島の高校生たちと一緒に進めたものも多い。県内で暮らす人の被曝(ひばく)線量を他県や他国と比較して、研究論文にまとめた。福島第一原発の廃炉作業について学び、実際に現地を視察した。次代を担っていく若い世代が、正確な事実にもとづいて、自分の力で考えていってほしい。早野さんはそう願っている。(聞き手・伊藤隆太郎)

――廃炉作業を18歳未満が初めて見学するまでには、さまざまな苦労があったでしょう。

 福島県立福島高校の13人が、引率の教諭5人と一緒に、昨年11月18日、福島第一原子力発電所の廃炉作業を見学しました。40年ともいわれる長い廃炉作業をこれから実際に担っていくのは、彼らのような若い世代です。現実をしっかりと見て、考えていく機会をつくりたいと思いました。

 しかし、事前に心配したことが二つあります。一つは、同行するメディアの問題です。

活動に批判も寄せられ

 「国道6号線問題」などと呼ばれる話題を知っていますか。高校生が地元の人たちと一緒に、国道6号線のゴミ拾いなどをする清掃ボランティアです。完全に善意の活動です。

廃炉現場を見学する福島高校の生徒たち。後ろは水素爆発した1号機の原子炉建屋=2016年11月18日、川原千夏子撮影

 ところが原発事故後、この活動に批判が寄せられるようになりました。福島県の東部を南北に貫く国道6号線は、事故後に通行が規制されました。規制解除後、ボランティア活動も再開したのですが、「危険な場所に子どもを連れて行くのか」などと、抗議の電話やファクスが主催団体などに届くようになったのです。除染ではなく清掃ですよ。

 私たちの廃炉作業見学が、同じことにならないようにと考えました。そのためには、きちんと取材をしてくれるメディアを同行することが必要です。そこで、幅広く告知をするのではなく、新聞社やテレビ局に1社ずつ、「行きませんか」と声をかけました。事前の勉強会にも来てもらいました。

 もう一つは、テレビカメラに高校生の姿が映る、という問題です。映像は正直ですから、たとえば質疑の時などに、彼らが自分の言葉でしゃべっていなければ、視聴者にはすぐに分かってしまいます。「原発推進派にしゃべらされているのだろう」などと、批判されてしまう。だから、高校生たちがしっかりと勉強して、本当に聞きたいことを自分の言葉で問いかけることが重要だと考えました。

高校生たちは知りたかった

 しかし、この二つ目は杞憂でした。彼らは、本当に知りたかったのです。彼らは本当によく勉強しました。そしてバスの車内でも、東京電力の社員を質問攻めにしました。この質疑のレベルはとても高く、私は大変に感心しました。

――高校生たちの論文執筆もサポートして、反響を呼びました。

 一昨年秋に発表した英語の論文ですね。きっかけは、「県内の被曝線量は、ほかの地域と比べてどれだけ高いのか」という彼らの率直な問題意識でした。この疑問を自分たちで解決しようと、県内の6高校と県外の6高校、そしてフランスやポーランドなど海外の14高校から、計216人が参加して比較調査をしました。

福島高校の生徒と外国特派員協会で記者会見する早野龍五さん(右)=2016年2月8日、大岩ゆり撮影
 参加者は、1時間ごとの被曝線量を記録できる「D-シャトル」という線量計を2週間着用しました。その結果、中央値で比較すると、1年間に換算した被曝線量は次の通りでした。
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