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返還されない北部訓練場の自然の価値

世界遺産候補地は、オスプレイや外来生物にさらされている

桜井国俊 沖縄大学名誉教授、沖縄環境ネットワーク世話人

図1 やんばるの森と米軍北部訓練場
 日本政府は、奄美・琉球の世界自然遺産登録を目指し、その準備として2016年9月15日に沖縄島北部のやんばる地域を国立公園に指定し、今年2月1日に推薦書を提出した。3月7日には、奄美群島国立公園の指定がなされた。2018年の登録を目指している。

 懸念されるのが、やんばる国立公園に隣接する米軍北部訓練場の存在である(図1)。やんばるの森の生物多様性保全に及ぼす影響が危惧されているのだ。

オスプレイの配備

 まず危惧されるのは、やんばるの空の上を頻繁に飛行するオスプレイの影響である。

 米海兵隊は、12年10月に12機、13年9月に更に12機のオスプレイMV22を沖縄島中部の普天間基地に配備し、以来、沖縄島の上空で訓練飛行を行っている。

 日米両国政府は、人口密集地にある普天間飛行場を閉鎖し、沖縄島北部の辺野古に移設する計画を進めており、辺野古新基地完成の暁には、およそ100機のオスプレイが配備され、辺野古新基地を起点に北部訓練場や伊江島など沖縄島の上空で低空訓練飛行、地形追随飛行が繰り返されることとなる。

 オスプレイの危険性はかねてより危惧されていたところであるが、昨年12月13日に普天間に配備されていたオスプレイが夜間空中給油訓練中に名護市の東海岸の安部集落沖に墜落し、その危惧が現実のものとなった。

 日本政府は、オスプレイの重大事故のたびに、機体には問題はなく、パイロットの操縦ミスである、と説明する。だが、沖縄の人々は、オスプレイが構造的に多々欠陥のある航空機だ、ということを、いまや確信するに至っている。そして、兵士や市民の命を軽んじ、危険を顧みずに訓練を繰り返し、兵士の錬度の向上を最優先するのが、軍の論理であるということを痛感している。

図2 ヘリパッドの位置図2 ヘリパッドの位置
 こうした軍の論理との不可能な「共生」を、まさに強制されているのが高江の人々である。図2に示すように、高江集落に暮らす人々は、新たに建設されたN4(2カ所)、N1(2カ所)、G、Hの6カ所のヘリパッドに囲まれている。騒音、低周波音で日常的に生活が脅かされるだけでなく、墜落による生命の危機に常時さらされることとなる。そこではもはや人間らしい生活は不可能であろう。

 6カ所のヘリパッドのうち、N4の2カ所は14年に完成し、15年から供用が開始されている。そしてN1(2カ所)、G、Hの4カ所は昨年12月に完成し、それとの引き換えで12月22日に北部訓練場の過半(約4000ヘクタール)が日本に返還された。政府は、「沖縄の負担軽減だ」と主張した。しかし、米軍の説明によれば、使用していない部分の返還であり、ほとんどが国有地で、民間の受益はゼロに等しいものであった。何ら負担軽減にならない。

環境アセスの不備

米軍北部訓練場に建設されたヘリパッド
 地域で暮らす人々にとって大問題だが、やんばるに生息する生きものたちにも、オスプレイがもたらす環境影響は尋常ならざるものがある。

 オスプレイは強度の騒音、低周波音を発生させるのみならず、通常のヘリコプターの4倍の風速の下降気流を発生させ、かつ、この下降気流は乾燥した芝を燃やすほどの高熱を伴う。

 やんばるの森上空で展開される低空飛行、地形追随飛行は、湿潤なやんばるの森の乾燥を招くなど、やんばるの自然に甚大な影響を及ぼすと危惧されているのである。

 しかしながら、ヘリパッド建設を進めた沖縄防衛局は、この重大な環境影響を全く調査していない。

 沖縄県の環境影響評価条例では、ヘリポートは環境アセスの対象事業となっている。だが、沖縄防衛局は、ヘリパッドには条例に基づく環境アセスは不必要、としていた。一方で、やんばるには貴重な自然があるとして「自主アセス」なるものを実施し、07年にアセス評価書を提出している。ところが、そのアセスで使用機種として設定しているのは、在来のヘリCH53であった。オスプレイを前提としたアセスは、

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