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男女共用トイレに関して日本の知識は誤解だらけ

盗撮懸念論というナンセンスな感情論に対する理性的な答えとは

山内正敏 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

 WEBRONZAで杉田聡氏が4月14日27日の2度に渡って男女共用トイレに対する「盗撮懸念論」を展開したが、男女共用トイレに対する偏見と認識不足を感じた。そこで本稿では、男女共用トイレを必要とする立場や、北欧在住という立場、介助を必要とする身障者としての著者自身の立場、技術・防犯を考える立場から、杉田氏へ反論を書かせて頂く。

 まず、杉田氏の論の前提に大きな誤解がある。それは男女共用トイレの普及が、男女平等論に基づくものであるというものだ。この誤解は、現実に男女共用トイレが普及している北欧の現実(女性の権利が保護される以前から普及)を全く調べていないことから来るもので、あまりにも世界のトイレ事情に対して疎いと言わざるを得ない。

スウェーデンは昔から男女共用の個室トイレが基本だ

 例えば私の務めるスウェーデン国立スペース物理研究所の入っている建物(大学の分校と共用)だが、トイレは全て個室で、それぞれに便座と洗面台があり、ドアは廊下や踊り場に直接繋がっている(写真はウプサラ大学の例)。いわば団地トイレの洗面部を少し広くした構造で、男性用とか女性用とかの区別はないし、個室の外に洗面台ばかりが並ぶような「男だけ・女だけ」の空間もない。そして、これらトイレのうち一個ずつだけが男性用と女性用として確保されている以外は全て男女兼用だ。学校や大学も同様で、基本が男女兼用の個室トイレであり、そのごく一部だけが男性・女性用となってる。アサガオがない不便はあるが、逆にアサガオがない事で、小用の際のエチケットが普及しており、日本の男子トイレより清潔だ。

男女共用の個室トイレの室内。十分な広さがあり、身障者も利用しやすい(諸岡倫子さん撮影)
 女子学生に話を聞くと「トイレは男女関係なくトイレでしょ? なぜ分ける必要があるの?」と不思議そうな顔をされる。そこにジェンダー云々の意識はみられない。区別する必要のないものを、わざわざ区別する非効率さに頭をかしげているのである。現に、トイレを全個室にする利点として、スタッフ・生徒の男女比の変化に自動的に対応している点がある。訪問者への対応にも困らない。こちらでは学校交流や他企業訪問が盛んだが、その際に男女比の歪なグループが訪問することは非常に多い。そういう時にも困らないのである。他にも、個室内で手洗い鏡チェック等が全部終わることという利点もある。要するに家庭の延長で無駄が少ないのだ。男女別の洗面室を省く事で、その分の面積が個室に宛てがわれる利点(写真)もある。

 他の公共施設でも、身障者用以外の共用トイレは多い。例えば私の住むキルナ市の中央駅にあるのは、身障者用トイレと共用個室だけだし、県立病院のトイレもことごとく共用の個室だ。ストックホルム国際空港すら、国内線では男女別の大きなトイレ(1カ所のみ)から離れた搭乗ゲート近くには、共用の個室トイレがいくつかある。そもそも汽車や山小屋などは男女共用が基本であり、新幹線のように男性用トイレがあるのが例外なのだ(効率的だから賛成はするが)。スウェーデンの汽車には男子トイレの代わりに身障者トイレがあり、JRよりよほど身障者に優しい。

スウェーデン・ウプサラ大学の地階廊下にずらりと並ぶ個室のトイレ。すべて男女兼用(諸岡倫子さん撮影)
 ちなみに、スウェーデンの法令では、日本の厚生労働省令のように「オフィスのトイレを男女別に分ける」ことは要求しておらず、従業員15人当たり1個以上のトイレが必要とだけある。それでもほとんどの場所で男女別のトイレは一個ずつは確保されているのが現実だ。杉田氏の論を読むと、あたかも男女兼用トイレの普及を目指す人が、男女別トイレをなくすことを目標に掲げているかのような印象を受ける。しかし、スウェーデンの現実を知れば、日本の法令から男女別という項目を外したところで、男女別トイレがなくなるとは到底思えないのである。むしろ、トイレが男女別に分けるように法令で定められているゆえに、スウェーデンのような兼用個室の設置自体が困難なことが問題なのである。

必要なのは個室トイレであり、全てが身障者用でなくてもよい

 第二に、身障者とトイレの関係に関する誤解がある。杉田氏を含め、多くの方が「介護を必要とする全ての身障者は身障者トイレ以外で用を足せない」と思い込んでいるのではあるまいか。これは完全な間違いだ。

著者が勤める研究所の男女共用トイレ。身障者用ではないが、ドアが広いお陰で介護と一緒に歩行器や車椅子を入れる

 例えばカテーテルを使用している人で、尿袋の開閉等が自力で出来ない場合(私もギランバレー発病後3年間がその状態だった)、身障者用のトイレでなくとも、

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