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脅かされる沖縄県民の命の水

衆院選挙中に明らかになった「日本の本当の国難」

桜井国俊 沖縄大学名誉教授、沖縄環境ネットワーク世話人

 沖縄は本土よりも雨が多く、水には困らないだろうと考える人が多い。しかしこれは大いなる誤解である。

 確かに本土の平均年間降雨量1600ミリに対し、沖縄のそれは2000ミリと多い。しかし沖縄の雨は梅雨期と台風期に集中し、かつ河川は短く急勾配で、雨はすぐに海に流出してしまう。このため、かつては年間二百数十日にも及ぶ制限給水が行われたこともあるほどである。最近、断水の話が聞かれないのは、沖縄本島北部のやんばるの森を切り拓いて一連のダム群を建設し、貯めた水を人口が集中する島の南部に送水するようになったからである。

炎上し大破した米軍のヘリコプター=10月12日、沖縄県東村高江
 しかし、一般市民の3倍の水を消費する観光客の急増により、沖縄の水需給は引き続き厳しいものがある。かねてより筆者は、そうした沖縄の水源地、ダム群の上を米軍が訓練飛行に使用するということは、首都圏であればあり得ない非常識なことであると指摘してきた。メディアがしっかりと報道するならば、その非常識さが全ての国民の前に明らかになる事態が発生した。10月11日の沖縄本島北部東村の高江集落での普天間基地所属の米軍大型ヘリCH53の緊急着陸・炎上大破である。

福地ダム汚染、危機一髪

 ヘリが炎上したのは、沖縄本島の6割の生活用水を賄う福地ダムの流域からわずか400メートルの地点である。一歩間違えば県民の“水がめ”の水質汚染のリスクが発生し、取水制限の可能性があった。

 これは杞憂ではない。2013年8月に沖縄本島宜野座村の米軍キャンプ・ハンセン内で嘉手納基地所属のHH60救難ヘリが墜落した際には、村は墜落現場から70メートル先にある大川ダムからの取水を1年間停止せざるを得なかった。日米地位協定の壁に阻まれて米軍の立入許可が得られず、安全確認が出来なかったためである。沖縄本島北部にある辺野喜ダム、普久川ダム、安波ダム、新川ダム、福地ダムの5ダムは地下水路で連結しており、最下流にある福地ダムの汚染はすべてのダムの水の利用を不可能とする。

ヘリが炎上した現場は、福地ダムのすぐ近くだった

 炎上したヘリは13年前の2004年8月13日に沖縄国際大学に墜落したヘリと同型機であり、沖国大墜落の際にはストロンチウム90に汚染された土壌を含め一切の証拠物件が米軍により持ち出され、県警、沖縄県などの日本側当局による現場検証・汚染解明が地位協定の壁に阻まれて不可能となった。民間地であるにもかかわらず、渡久地学長自身が自らの大学キャンパスから7日間も締め出されたのである。

 今回の高江での事故機にも放射性の材料(ストロンチウム90と推定される)が使用されていることを在沖海兵隊は認めている。県民の健康を守る責務を有する沖縄県の環境部は、当然のことながら事故機周辺の土壌の試料採取を求めた。しかし当初は米軍に立入りを拒否され、立入りが許可された10月20日には、当初予定した条件での土壌採取を県が行う前に、その鼻先で米軍は事故現場の土壌をショベルカーで掘り起こし大型トラック5台分の土を搬出してしまったのである。

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