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行き場を失った米軍基地ゴミ

分別を徹底せず、環境管理基準を守らない無責任がもたらした混乱

桜井国俊 沖縄大学名誉教授、沖縄環境ネットワーク世話人

 沖縄本島中部の沖縄市池原にひときわ目立つ高さ30メートルのゴミ山がある。沖縄県民の水ガメの一つである倉敷ダムからわずか500メートルほどのところだ。

 このゴミ山を積み上げてきたのは県内大手の産業廃棄物処理業者「倉敷環境」だが、沖縄県は11月20日、倉敷環境が系列会社の敷地内にゴミを不法投棄したとして廃棄物処理法に基づき産廃処分業などの許可を取り消したと発表した。同社は翌日から営業を停止しており、多くのゴミが行き場を失い、離島県沖縄のゴミ問題の深刻さが改めてクローズアップされている。

米軍ゴミの受け皿

 倉敷環境は、沖縄市とその隣のうるま市にそれぞれ管理型と安定型の最終処分場を所有し、一般廃棄物、産業廃棄物の双方を受け入れてきた。県によると、2015年度の処理実績は計約2万5千トンで、県全体の約1割に当たる。そして受け入れゴミの大半は在沖米軍基地が排出したゴミである。

 在沖米軍基地内には廃棄物処分場がないため、基地から排出されるゴミは倉敷環境を含む県内民間業者が請け負ってきたが、倉敷環境はその最大の受け皿であった。県の調べによれば、09〜15年度までの米軍基地排出ゴミの総量は年間2万1千トン〜2万6千トンで推移してきたが、倉敷環境は09年度にはその49.5%、14年度には100%、15年度には61.5%を受け入れている。在沖米軍基地から排出される一般廃棄物の約6割を処理する同社が営業できなくなったことで、嘉手納基地などでは11月21日以降、家庭ゴミの回収が止る事態が発生しており、県によると受け皿のメドは立っていない。

環境管理基準を守らない米軍基地

 在沖米軍基地から排出されるゴミの受け皿のメドが立たない原因の一端は、米軍ゴミが分別されていないことにある。離島県沖縄では、本土の他県以上にゴミの処分地の確保が難しく、分別・リサイクルの徹底がゴミ行政の基本となっている。分別されていない米軍ゴミは、引き受け手のいない厄介なゴミなのである。

米軍嘉手納基地=沖縄県嘉手納町、本社機から
 米国連邦議会は、米軍の活動が海外において環境を破壊することがないよう、1991会計年度国防授権法で国防総省に域外環境管理基準を義務付け、96年から実施されている。在日米軍基地の場合には日本環境管理基準(JEGS)が適用されている。日米政府は、2年ごと、2回のJEGS改訂を経て、正式に適用することを2000年9月11日に「環境原則に関する共同発表」で合意した。この発表は「環境保護及び安全のための在日米軍による取り組みは、日米の関連法令のうちより厳しい基準を選択するとの基本的考えの下で作成される日本環境管理基準(JEGS)に従って行われる。その結果、在日米軍の環境基準は、一般的に、日本の関連法令上の基準を満たし又は上回るものとなる」と明言している。

 しかし沖縄では周知のことであるが、このJEGSは、沖縄の環境を守る上で何ら役に立っていないといっても過言ではない。その最たるものが嘉手納基地や普天間基地の周辺に居住する住民を苦しめている騒音、振動、悪臭に関して何ら基準が設定されていないことである。

 廃棄物についてはJEGSの第7章が取り扱い基準を定めており、例えば7章3.3項は「軍施設は、固形廃棄物の廃棄量を減らすために、固形廃棄物管理計画を策定及び実施する。この計画は、リサイクル、堆肥化、廃棄物最小限化活動を含み得る」としている。しかしこれは絵に描いた餅であり、ほとんど分別されないまま排出されているのが実態である。倉敷環境は分別されていないゴミをそのまま受け入れてくれる便利な受け皿だったのである。この便利な受け皿を利用してきた県内の他の事業者たちも、同社の営業停止で大慌てとなっている。

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