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イタリアでは、米軍基地の管理権はイタリアにある

主権を放棄した日米地位協定こそ、沖縄の苦難の元凶だ

桜井国俊 沖縄大学名誉教授、沖縄環境ネットワーク世話人

 下の写真を見て欲しい。2018年1月14日付けの琉球新報一面トップの記事である。見出しは「イタリア爆音なき夜」だ

2018年1月14日付「琉球新報」1面
 記事は「北イタリアにあるアビアノ米空軍基地は午後7時過ぎには静まりかえっていた」との書き出しで始まっている。日本と同様に第二次大戦の敗戦国でありながら、イタリアの米軍基地には静寂な夜がある。なぜ沖縄には静寂な夜がないのだとの深刻な問いをこの記事は投げかけている。両者の違いの根本原因は地位協定の差にあり、主権放棄の日米地位協定こそが沖縄の苦難の元凶であるというのがその結論だ。

実効性を欠く騒音防止協定

 在日米軍には日本の各種環境法制は適用されない。かわりに在日米軍が作成した日本環境管理基準(JEGS)が適用されることとなっている。JEGSは、米国域外の米軍施設・区域における環境政策を定める大統領令及び国防省通達を根拠に策定されており、日米両国の環境基準のうち、より環境保護的な基準を適用するものとされている。その結果、在日米軍の環境基準は、一般的に、日本の関連法令上の基準を満たしまたは上回るものとなるとされている。

 しかし、JEGSの中には騒音に関する規定がそもそも欠如している。そのかわりに騒音防止協定がある。1996年3月28日の日米合同委員会においてなされた「嘉手納飛行場及び普天間飛行場における航空機騒音規制措置に関する合同委員会合意」がそれである。

 この合意は「22時〜6時の間の飛行及び地上での活動は、米国の運用上の所要のために必要と考えられるものに制限される」としている。太字にした部分がくせ者で、基地周辺住民は、夜間の離発着による騒音で眠れない夜を過ごすことがしばしばであるが、「米国の運用上の所要のために必要」(例えば、安全な昼間に米国に着陸するために沖縄を深夜・早朝に離陸するなど)ということで合意違反とはされないのである。かくして米空軍嘉手納基地と米海兵隊普天間基地は、周辺住民に耐えがたい騒音被害を及ぼしており、両基地周辺住民は日本政府を相手に数次の爆音訴訟を起こしているのである。

世界で「最も寛大」な日米地位協定

 地位協定とは、他国に軍隊を駐留させる場合、派遣国軍の受け入れ国での法的権限などを定めた協定で、1960年に制定された日米地位協定は、米軍に対する日本側の施設・区域の提供義務や、米軍人への日本国内法令の適用除外などを定めている。

 米軍は世界中の80ヵ国に800ヶ所を超える軍事基地を有しているといわれており、受け入れ国との間に多くの地位協定を締結している。そうした地位協定の中で、日米地位協定は米軍に最も寛大であると言われており、伊勢崎賢治氏・布施祐仁氏は、地位協定の国際比較の視点から日本の姿を論じたその著書のタイトルを「主権なき平和国家」(2017年、集英社)としている。

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