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米国は地球環境政策をリードしてきた

トランプ政権下で忘れられる輝かしい歴史と心配な日本の行く末

小林光 東京大学教養学部客員教授(環境経済政策)

 アメリカの大学で地球環境政策を講じながら、アメリカ国内の環境取り組みの動向を勉強させていただいている。感じるのは、中央において環境規制の維持・撤廃が政治的な問題としてあえて俎上(そじょう)に上げられている一方で、地方の現場では、しっかりとした環境意識や取り組みが根付いていて、大きなギャップがあることである。

退潮を続ける連邦環境行政

 2018年1月には、EPA(連邦環境保護庁)ほかの政府のWEBサイトから、気候変動関係の情報が大幅に削除されていることが報じられた。

 私自身も、かつては簡単に検索、参照できた、オバマ政権下のクリーン・パワー・プログラムの資料が全くなくなっていて困り、憤っていたが、どうもそれだけでなく、エネルギー省などの資料も大幅に減り、言葉も、気候変動という用語がサステイナビリティーに、温室効果ガスの排出が漠然とした排出に、置き換えられているといったことが、政府機関で広く起こっているようだ(民間の克明な調査リポートが出ているのは、さすがにアメリカである)。

トランプ政権での書き換えをまとめた民間の調査リポート「CHANGING THE DIGITAL CLIMATE」トランプ政権での書き換えをまとめた民間の調査リポート「CHANGING THE DIGITAL CLIMATE」

 明文の大統領命令があったという話も聞かないので、日本だけでなくアメリカでもそれこそ「忖度(そんたく)」や自主的な「改ざん」がしっかりと行われているのだろう。環境規制法違反の公害事犯に対する是正措置(enforcement)の矛先が鈍っている、といった実名告発的なニュース解説も流された。

 また、必ずしも環境だけではなく政府規制全般の話であるが、公益の増加に対する私益の低下の大きな政府規制を撤廃簡素化する動きも進んでいる。

 環境では、化学物質関係の規制を中心に簡素化が始まっている。既に本欄で紹介した、公布済みの石炭火力規制の撤回と新規制の準備開始、さらには、2022年以降に予定される乗用車などの燃費規制を見直しするとの方針に関する告示(4月)なども連邦環境政策の退潮を印象付けている。

国内での政策研究がよい国際ルールに

 昔は、素朴に信じられた、ベストでブライテストな人たちが指揮していたはずの、世界一の大国の今の混乱ぶりには、ちょうどその時に米国内に居合わせているので、とてもやきもきする。

 せめて自分の出来ることとして、学生やまちの人たちを相手に、かつてのアメリカの輝かしい姿を講じて、ボトムアップからの奮起を促してみたいと考えた。それは、授業を離れた一般向けの講演をする機会が巡ってきた(フルブライト財団の支援により米国で教壇に立つ教員に求められる義務の一つ)ので、このせっかくの場を利用してみようという魂胆であった。

 講演は2月1日に行った。その流れは以下のとおりである。

 1987年のモントリオール議定書は、米国が世界各国に向けて強力に根回しした結果でできたものである。

今年2月に一般向けに開かれた環境問題に関する講演今年2月に一般向けに開かれた環境問題に関する講演
 85年末のオゾンホールの発見を契機にした国民世論の硬化、他方での米・デュポン社によるフロン代替物質の開発を受けて、米国政府には対策強化をしない言い訳はなくなってしまった。

 しかし、フロンは、集積回路などを作るためには必須の物質だったので、その生産や使用の制限を米国が一方的に始めると国際貿易上不利になるため、米国は国際約束を作ることとして各国を強力に説得した(実際、私も説得された)。

 出来上がったモントリオール議定書には、
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