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なぜドイツの労働生産性は日本より高いのか

教育と資格と仕事の一貫したシステムで、余裕のある働き方を実現

永野博 政策研究大学院大学客員研究員、日本工学アカデミー顧問

ドイツの労働生産性は日本より3割も良い

 働き方改革関連法案が6月29日に成立した。日本人は働く時間が長く、一生懸命仕事をしているのに、労働生産性がとにかく悪い。日本の国際競争力が劣化する中、官邸主導の「改革」の是非が話題になっている。

 私の住んでいたドイツは、はたから見ていると、人々は残業をすることもなく生活を楽しみ、何週間も休暇を取る。これでは労働生産性がさぞかし悪いのではと思いきや、日本より3割も良い。働き方の何が違うのだろうか。違うことはいろいろありそうだが、まず気がつくのは、ドイツではどんな仕事も資格を取得しないとできないということだ。

 日本でよく聞く言葉にマイスターというのがあるが、これも資格を表す用語の一つだ。ドイツでお菓子屋さんにいくと、お店のどこかにマイスター証書がかけてある。ドイツには教育段階から職業につくまで一貫したシステムがある。日本ではあまり知られていないその職業教育のあり方を詳しくリポートしてみたい。

職業教育は「学校+職場実習」の二元教育

 ドイツでは、10歳くらいになると、将来、大学に行くのか、それとも手に職をつけて働くのかを決める。以前は大学コースを選んだのは3分の1程度だったが、今は大体半々である。

 職業教育コースを選ぶと、15歳くらいまで主に基幹学校(ドイツでは教育の権限は連邦政府にではなく各州にあるので、州によって名前が異なる)というところで基礎的な勉強を続ける。基幹学校を終えると、いよいよ職業教育が始まる。これが二重教育、あるいは二元教育といわれるもので、週1~2日、職業学校で理論を習い、週3~4日、企業で実務をしながら、3年間くらいかけて一人前になるというものである。

 生徒は、400程度に分類された職業のうちの一つを選び、職業能力をつけることになる。職業は大きく分けて、産業に関するものと、手工業に関するものがある。産業に関するものは製造技師、自動車工、自動化技術電気工、事業経営従事者など約270、手工業は、家具職人や菓子職人、商業に携わる者、歯科技工士、建築現場足場組立士、情報電気技師、自動車販売士など約130ある。

 では、どのように職業教育が始まるのだろうか。手工業と産業では少しシステムが異なるので、伝統がより反映している手工業を例にしてみる。ドイツには100万に近い手工業者がいるが、彼らは、地域ごとに存在する手工業会議所に加盟する法的義務がある。全国には60程度の手工業会議所があり、これらを束ねる組織としてドイツ手工業中央連盟がベルリンにある。

まずマイスターと3年の労働契約を結ぶ

 生徒は基幹学校にいる間に将来どのような仕事をしたいかを決め、卒業後は、先ず、自分が学びたい仕事をしている手工業者を訪ね、そこの経営者(マイスター)と労働契約を結ぶ。契約を結べると、はじめて州政府の運営する職業学校に登録することができる。契約を結んだ手工業者は3年間にわたり、この見習工に給与を払うことになる。

 なぜ、見習工に給与を払えるのかと聞いてみると、

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