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ノーベル賞受賞「がん新治療薬」の光と影(再掲)

日本の社会はがん治療の進化へ付いていかれるか

北原秀治 東京女子医科大学特任准教授(先端工学外科学)

数日間、数ヶ月と投与するとどうなるかは容易に想像がつく。また、これらの薬剤は副作用も少なく、上述した高価な分子標的治療薬とも併用ができるため、副作用の多い以前の抗がん剤とは違い、止め時も判断しにくく、結果、長期間使用されてしまい、国民皆保険制度のもと社会保障費の増大に拍車をかけている。

免疫の働きのブレーキをはずすという免疫チェックポイント阻害剤
 抗悪性腫瘍薬(抗がん剤、分子標的治療薬等)は、がん細胞の耐性に対応するため次から次に新しい薬を開発していかなければならない。この現象を見るだけでも、開発費がかさみ、薬価が高騰することが予想されるのだが、アメリカなどとは違い国民皆保険制度のある日本では、がん細胞の毒性を阻害する薬で、社会保障制度に「毒」を生じてしまい、日本経済、社会保障制度に大変なダメージを与えてしまう。さらにこの免疫チェックポイント阻害剤が加わることで、年間20%以上の社会保障費の増大が予想されており、社会保障制度破綻はいよいよカウントダウンといったところだろう。

 適応を満たせば効果に関係なくどの患者にも使用される可能性がある現医療制度や、抗悪性治療薬ががんを完治させるという間違った考え方の定着もこの問題を加速させている。この新たな副作用を防ぎ、夢の薬を適応ある患者に届けるためにも、改善策の議論が急がれる。

 人々が健康になる、長生きするための医療にかかる費用が増大して、社会保障制度が破綻してしまい、その治療に最も適した患者が結局治療をうけられないというのでは本末転倒である。ただ、社会保障費を押さえることが目的で診療報酬を引き下げ、その結果患者数をこなさなければ病院経営が成り立たないようにし、流れ作業のように新しい薬が使われるようになるものも、これまた結果的に社会保障費を増大させてしまう悪策である。まず、新薬の良さと限界を患者を含めた社会全体が理解する必要がある。そのうえで患者、研究者、医師、企業、政府が垣根を取り払って一丸となり、根本である皆保険制度、社会保障制度、そしてがん治療を見直す機会を作る。日本発の「夢の薬」はそのような機会を与えてくれると信じている。

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