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沖縄——「傑出する生物多様性の島」の新たな船出

玉城デニー新知事が掲げた「自立・共生・多様性」への歩みが始まった

桜井国俊 沖縄大学名誉教授、沖縄環境ネットワーク世話人

 生物多様性が高く、同時に人間活動による大きな絶滅圧力にさらされている地域を生物多様性のホットスポットと呼ぶ。コンサベーション・インターナショナルは世界の中の生物多様性ホットスポットを次図のように指定しているが、日本は世界の生物多様性ホットスポットの一つと認識されている。

生物多様性ホットスポット(コンサベーション・インターナショナル提供)
 世界の生物多様性ホットスポットの一つと認識されている日本の中でも、沖縄の生物多様性は傑出している。世界自然遺産に登録すべく取り組みがなされている「やんばるの森」は貴重な亜熱帯の森であり、日本全体の平均に比べて、面積当たりの動物種数で51倍、植物種数で45倍もの豊かさを誇っている。

 在日米軍の新基地建設が強行されている名護市辺野古と大浦湾も極めて生物多様性の高い海であり、自然保護関係者は「沖縄の財産であり、世界の宝である」としている。沖縄防衛局が実施した環境影響調査では、大浦湾には262種の絶滅危惧種を含む5334種もの生物が記録されており、このため日本生態学会などの19学会は、「著しく高い生物多様性を擁する沖縄県大浦湾の環境保全を求める19学会合同要望書」を2014年11月11日に、国と県へ提出している。

 また、辺野古新基地建設計画が契機となって、辺野古・大浦湾を守ろうとする自然保護関係者の手で緊急の調査が実施され、サンゴ、海藻、貝類、甲殻類などの新種が次々と発見されている。その中でも大きな話題となったのが、2007年に発見されたチリビシの巨大なアオサンゴ群集である。

多様性を尊重する人間社会を目指して

 生物多様性の島、沖縄では、8月8日の翁長前知事の急逝により、急遽9月30日に県知事選が実施され、「翁長知事の遺志を継ぐ」と訴えた玉城デニー氏が39万票という史上最高の得票で選出された。その玉城氏が掲げた目標が自立・共生・多様性の沖縄である。地域社会の将来像に多様性を掲げた知事の登場は、日本社会でおそらく初めてのことではなかろうか。

知事選から一夜明け、街頭で手を振る玉城デニー氏=2018年10月1日、沖縄市、金子淳撮影
 玉城氏は沖縄に海兵隊員として駐留した米国人の父とウチナーンチュの母の間に生まれ、幼いころは「ハーフ」という理由でいじめられた経験を有する。いわば沖縄の戦後史を体現する知事である。その彼が選挙戦で訴えた沖縄の未来像が多様性を尊重する社会である。「みんな違ってみんないい」(金子みすず)と言える社会の実現、これこそはまさに氏の経歴に根差す目標である。

 当選後、TBSの報道特集が玉城新知事のインタビューを放映したが、その中で玉城氏は、多様性の尊重を訴えるに至った背景について語っている。見た目で差別され偏見で苦しんでいる玉城氏を見て、育ての母が「とぅーぬ いーべぇー いぬたけぇー ねーらん」(10本の指は同じ長さ・太さではない)、「それぞれ個性があってみんな違うけれど、それぞれの指の役割を果たしているでしょ」と諭したというのだ。

 人の痛みがわかる玉城氏が掲げた「多様性が尊重される沖縄社会の実現」という目標は、沖縄社会の中に明らかに新たな反響を呼び起こした。地元紙の沖縄タイムスと琉球新報は、今回の知事選の争点を解説する記事を連日掲載したが、テーマの一つが「多様性」であった。沖縄には玉城氏のように従来のウチナーンチュの属性にあてはまらない多様なルーツを持つ人たちが暮らしている。玉城氏が「属性を超えすべての人が輝ける多様な沖縄」を実現しようとしているとして、その人たちは今回の選挙で大いに元気づけられたと報じたのである。

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