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辺野古の海についに土砂が投入された

死を宣告された大浦湾の生きものたち

桜井国俊 沖縄大学名誉教授、沖縄環境ネットワーク世話人

 2年前の12月13日、沖縄県名護市の東海岸の安部(あぶ)集落沖にオスプレイが墜落した。夜間給油訓練中に給油パイプがローターに絡んで破損し、普天間基地まで帰着できず安部の海に落ちたのだ。この事故について米軍準機関紙星条旗はClash(墜落)と報じたのだが、本土メディアの多くは「不時着」と報道し、米軍に対して腰が引けたその姿勢に沖縄県民は改めて失望したことが思い起こされる。

 安部は大浦湾をはさみ、新基地建設が進められる辺野古岬の対岸に位置する小さな集落である。墜落を契機に「オスプレイNO・大浦湾の環境を守る安部おばあ達の会」が立ち上がり、筆者はその活動にささやかな支援を行ってきた。その安部おばあ達の会が、12月13日から16日まで写真展「大浦湾の生きものたち」を大浦湾沿いの集落の瀬嵩(せだけ)にある名護市役所久志(くし)支所で開催した。

写真展「大浦湾の生きものたち」の会場で講演を聞く人たち=2018年12月16日、沖縄県名護市写真展「大浦湾の生きものたち」の会場で講演を聞く人たち=2018年12月16日、沖縄県名護市

19学会が建設見直し要望

 大浦湾の生きものたちはじつに多様である。その理由は、山、川、海、海辺に様々な生態系がそろっていること、そして亜熱帯であることにある。中でも重要なのは、様々なサンゴがサンゴ礁生態系を形成し、そこが生物多様性の宝庫となっていることである。辺野古・大浦湾は、沖縄防衛局が行った環境影響調査でも262種の絶滅危惧種を含む5334種の生物が確認されている生物多様性のホットスポットである。世界に二つとない貴重な自然であることから、日本生態学会をはじめとする19の学会が、2014年11月11日、連名で防衛大臣に対し辺野古新基地の建設を見直すよう要望書を提出しているほどだ。

 このように豊かな生きものたちが暮らす大浦湾の“今”を記録し、それを発信することを目的に活動しているグループが「ダイビングチームすなっくスナフキン」である。2003年結成以来、さまざまなメンバーが入れ替わりながら、常時10名ほどが参加している。彼らが撮影した大浦湾の生きものたちの写真パネルおよそ100枚、生物種としては1000種近くの写真が展示された。陳腐な表現であるが、まさに竜宮城をのぞき見る思いがする。

『大浦湾の生きものたち』(南方新社)
『大浦湾の生きものたち』(南方新社)

大浦湾は生きものの宝庫

 ダイビングチームすなっくスナフキンは、辺野古の海図鑑『大浦湾のいきものたち』(2000円+税)を編集し、南方新社から出版している。その中で同チームは、「多彩な環境を含む大浦湾は、まさしく生きものの宝庫です。ジュゴンのように有名なものから、まだ名前さえ付いていない未知のものまで、無数の命が暮らしています。(しかし)埋立は生物多様性の大きな損失に繋がりかねません」と新基地建設に懸念を表明している。

 彼らが写真パネルを作成しパネルを沖縄県内のみならず県外にも無料で貸し出しているのは、そうした懸念からまずは大浦湾の自然がどれほど豊かなのかを知ってもらおうと考えているからである。12月13日の写真展開会式において同チーム代表の西平伸氏が行った大浦湾の生きものについての話が興味深かった。氏によれば、大浦湾の生きものは種数は多いが、種によっては個体数が極めて少なく、環境の変化でいついなくなってもおかしくないというのである。

ミナミトビハゼ(写真展掲載の写真)ミナミトビハゼ(写真展掲載の写真)
 例えば、沖縄島中部の泡瀬干潟を象徴するミナミトビハゼ(沖縄ではトントンミーの愛称で親しまれている)が、大浦湾のマングローブ林にもすんでいて、これは北限のミナミトビハゼであるが、個体数は十数匹程度であり、いつ絶滅してもおかしくないというのである。同チームのメンバーを含め沖縄県民がこぞって恐れていた事態が写真展開催中の12月14日に発生した。
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