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国際捕鯨委員会脱退で得るもの、失うもの(下)

南極海からの「撤退」のために描かれた周到なシナリオ

佐久間淳子 フリージャーナリスト

 日本政府は昨年12月、国際捕鯨委員会(IWC)を脱退すると国際捕鯨取締条約の寄託国である米国に伝えた。脱退は2019年6月30日に確定する。「このままIWCにとどまっても商業捕鯨再開の可能性はない」という理由だが、どんな意味があるのか。

大芝居だった?昨年のIWC総会

 「IWCにとどまっていても商業捕鯨の再開は望めない。だから脱退する」と大見えを切ったわりには、商業捕鯨はきわめてささやかな規模になるのは間違いない。しかし、おしるし程度であれ「脱退して商業捕鯨を再開した」ことにはなる。30年来の悲願達成である。

 今回のIWC脱退は、これが重要だったのではないだろうか。

 日本は、商業捕鯨再開の「名」を取ったのだ。そして、「実」の大半を捨てた。「実」はすでに、なくなっていたのかもしれない。そう考えると、昨年の9月にブラジルで開催された第67回国際捕鯨委員会総会に日本が出したパッケージ提案の意味もわかってくる。

第67回IWC総会に参加した日本政府代表団の谷合正明・農林水産副大臣(右から3人目)ら=2018年9月、ブラジルのサンタカタリーナ州フロリアノポリス第67回IWC総会に参加した日本政府代表団の谷合正明・農林水産副大臣(右から3人目)ら=2018年9月、ブラジルのサンタカタリーナ州フロリアノポリス

 開催前の報道では、日本提案は「膠着(こうちゃく)したIWCにおいて、反捕鯨国と持続的利用支持国がすみ分けるために、既存の保護委員会と並立させる持続的捕鯨委員会の設置を求め、どちらも本会議で可決が取りやすいように規則を変更し、資源量に問題のない鯨種の商業捕鯨再開の提案とパッケージにして提案し、コンセンサスを目指す」というものだった。「日本、商業捕鯨再開を提案」と期待を膨らませるような見出しになっていた。

 筆者から見るとこの提案は、ハナから否決されるのを見越して作ったように感じられた。IWCでは、条約の条文にかかわるような提案が採択されるには参加国の4分の3の賛成が必要で、その他は過半数可決である。これに対してコンセンサスとは、「懸念の発言はするものの、表決は求めない、採択をブロックはしない」ことをすべての参加国が表明したときに成立する。

 今回の日本提案は「資源が豊富な種類に限った商業捕鯨の再開」を含めてコンセンサスを得ようというものだった。しかし、いかなる言い回しであろうと、「捕鯨には反対する」と態度を決めているオーストラリアなどが、この内容でコンセンサス合意するわけがない。

 この日本提案が7月に公表されたとき、筆者は「通りもしない提案を出したものだ。役人が、議員の手前“仕事をしているフリ”をするためにひねり出したのか?」と考えていたのだが、今にして思えば、

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