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プルトニウム管理の国際規範づくり、日本が主導を

「新たな原子力・核不拡散に関する政策提言」を発表

鈴木達治郎 長崎大学 核兵器廃絶研究センター(RECNA)副センター長・教授

 2019年6月4日、笹川平和財団「新たな原子力・核不拡散に関するイニシャティブ研究会」が、プルトニウム国際管理に向けての提言を発表した。この研究会は昨年9月に発足し、筆者が座長を引き受けることとなった。その初めての政策提言書が、この度まとまったので、ここにこの研究会の背景・趣旨とともに、提言の内容を紹介させていただく。

「原発の是非に特定の立場をとらない」

 本研究会は、笹川平和財団の田中伸男会長肝いりで始まった取り組みであり、唯一の戦争被爆国でありまた福島原発事故を経験した原子力平和利用先進国である日本が、核軍縮・不拡散分野で貢献できる政策を提言しよう、という趣旨でメンバーが集められた。元大使や政府高官、ジャーナリスト、国際政治学者や原子力工学研究者など、多様な立場と専門分野から一線級の人材が集められた。

原発内の核燃料取り出し作業。使用済み燃料には分離前のプルトニウムが含まれる=九州電力川内原発、金子淳撮影
 その座長をお引き受けするにあたり、最初に確認したのが、この研究会の提言の「信頼性」を高めるため、「原子力については立場をとらない」原則に全員で合意していただくことだった。メンバーには原子力や核燃料サイクルについて、様々な意見を持つ方がいるが、その立場を超えて、核軍縮・不拡散分野で合意できる政策提言をしよう、という趣旨であった。

 そういった趣旨のもと、福島原発事故の教訓、北朝鮮問題、核兵器禁止条約と核不拡散体制等について、議論を続けてきたが、第1の優先順位として取り組んだのが、この「プルトニウムの国際管理」問題であった。原子力平和利用先進国としても、重要な責任を負う、ということから、この問題でまず政策提言を行うこととなった。

 以下がその提言の骨子である。

プルトニウム問題は国際安全保障上の脅威

 2016年末現在、核兵器転用可能な核物質である高濃縮ウランと分離プルトニウムは、合計で10万発以上の核弾頭に相当する在庫量となっており、国際安全保障上大きな脅威となっている。このうち高濃縮ウランは減少傾向にあるが、分離プルトニウムは増加を続け現在約520トン、長崎型原爆(6kg/発)換算で8万6000発以上に達している。

提言を発表する笹川平和財団の田中伸男会長と筆者=2019年6月4日、高橋真理子撮影

 また、発電や研究などの民生用の分離プルトニウムの在庫量約290トンは、全在庫量の56%を占めている。特に日本の在庫量は47トンで、非核保有国における在庫量の95%を占めており、原子力平和利用先進国であり、プルトニウム利用を進めようとしている日本の責任は重い。

 ……これが研究会の問題意識であり、この提言はあくまでも国際安全保障上の問題を解決すべく、日本の貢献策を模索するものであった。しかし、その中で、日本のプルトニウム利用に対する懸念を払拭し、信頼性の向上に貢献することを目指した提言となったのである。

 ここで「分離プルトニウム」とは、原子力発電所でウランを使用すると生まれるプルトニ ウムを、使用済み燃料のなかから再処理工場で取り出したものである。再処理によって抽出された分離プルトニウムは核兵器の材料にもなり、また高速増殖炉の燃料にもなる。しかし、高速増殖炉開発は日本を含む多くの国で行き詰っているため、大量のプルトニウム在庫量となっているのである。

提言1 プルトニウム国際貯蔵の追求:「余剰」なプルトニウムを国際原子力機関(IAEA)の管理下におく

 この提案は、日本の大量のプルトニウム在庫量に対する懸念解消と信頼性向上を目的として、「余剰」なプルトニウムをIAEAの管理下に置く、というものだ。ただ、「余剰」の定義が難しいため、本研究会では、「適正在庫量」以上のプルトニウム在庫量を「余剰」と定義することとした。「適正在庫量」は日本政府が最終的に決定できるが、その際、IAEAの専門家グループのアドバイスを受けることとした。

 また、国際貯蔵から引き出す場合には、プルトニウム利用計画に基づいて引き出すことになるが、その利用計画の合理性も、IAEAと日本の専門家による客観的な評価を受けることとする。

提言2 現在の国際規範である国際プルトニウム管理指針の強化:日本の原子力委員会の決定に基づき既存在庫量の削減を新たな国際規範として提言し、再処理を抑制する。

 現在の国際規範ともいえる「国際プルトニウム管理指針」は、在庫量の自主的な公表を軸にして透明性向上を主な目的としているが、在庫量削減については触れられていない。そこで、本提言は、

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