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入試に「琉球史」を導入する沖国大

若い世代が郷土の歴史認識を共有することの大切さ

桜井国俊 沖縄大学名誉教授、沖縄環境ネットワーク世話人

 「イデオロギーよりアイデンティティー」をスローガンに、保革を越えて結束し未来を切り拓くことを沖縄の人たちに訴えた翁長雄志前沖縄県知事が急逝してから、明日の8月8日で1年になる。前知事のこの願いの実現につながる小さいが重要な動きがこのほど地元紙で報じられた。沖縄国際大学(沖国大)が2021年度の一般入試で選択科目に「琉球・沖縄史」を導入するというのだ。現在の沖縄に至る琉球・沖縄史についての理解を若い世代に求めていくことは、沖縄のアイデンティティーを確立する上で不可欠なことだからだ。

普天間基地はどこに作られたのか?

 ネット上では、普天間基地は何もないところに米軍が建設したのだが、その後、人々が仕事を求めて基地の周りに集まってきたのだという言説が流布し、それを信じて疑わない若者が少なくない。人家が密集した戦前の宜野湾集落の写真を示すまでは、危険に近づいてきた人々の方こそが悪いというネット右翼の主張に彼らは完全に呪縛されていたのである。普天間基地から石を投げれば届く距離にある沖国大の学生たちが、普天間基地の成り立ちについて正しい歴史認識を持つことは、どのような未来を沖縄は目指すべきかを考える上での出発点となる。

記者会見での翁長雄志知事=2018年7月27日、伊東聖撮影
 本土攻撃の航空基地建設のために強制接収した民間地を戦後も占拠し続けることはハーグ陸戦法規違反であること、普天間の代替ということで辺野古に新基地建設を要求することは盗人猛々しいこと、これを地元民中の地元民とも言うべき沖国大生が知ることの意義は大きい。その上で6月24日の米ブルームバーグ通信の報道に接したなら、彼らの怒りは爆発したに違いない。トランプ大統領は、辺野古への米軍基地の移設を1兆円の不動産価値を有する米国の土地の日本による収奪と考えており、米軍移転について金銭的補償を求める考えにも言及したと同通信は報じたからである。

 沖国大の受験を考える若者たちは、琉球・沖縄史を学ぶ中で、2004年8月13日に同大学に米海兵隊ヘリのCH53が墜落し、キャンパスが1週間にわたって海兵隊により封鎖され、当時の渡久地学長自身が自らの大学に入ることも出来なかったことを知るだろう。そしてこの不条理の大きな原因となっているのが日米地位協定であることを学ぶであろう。

1945年6月15日に開始した普天間基地の建設(沖縄県公文書館所蔵)
 入試の選択科目の一つとして「琉球・沖縄史」を導入するのは沖国大が初めてであるが、沖縄大では2013年度から7年連続で選択科目「現代社会」の中で沖縄・琉球関連を出題しており、2020年度もこれを継続する。沖縄の他の大学も入試において「琉球・沖縄史」関連の問題を何らかの形で出題し、それが受験生にとって周知の事実となるならば、沖縄の未来像を議論する上での共通の歴史認識が若い世代の中に順次形成されていくに違いない。

沖縄の地球史・生命史

 あと一つ、若者に限らず沖縄に暮らす全ての人々がしっかりと学ぶ必要があるものに、郷土沖縄の地球史・生命史がある。沖縄は東洋のガラパゴスと呼ばれるほど生物相が豊かだと言われている。なぜそうなのかを、果たしてどれだけの人々が理解しているだろうか。ここ沖縄には、明らかにそのことを理解していない人々がいる。日本政府に迎合し、辺野古・大浦湾の海の埋め立てを容認している政治家たちだ。

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