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感情より理性を刺激する英国の戦争博物館

第一次大戦から現代のシリア内戦まで、戦争を多面的に見せる展示に圧倒された

高橋真理子 ジャーナリスト、元朝日新聞科学コーディネーター

帝国戦争博物館(IWM)ノース(North)の「1990年から現代」のコーナー。「平和?」と問いかけている=2016年7月24日、英国マンチェスター
 英国マンチェスターにある「帝国戦争博物館(Imperial War Museum=IWM)ノース(North)」を訪れたのは、3年前だ。英国には5つのIWMがあり、たまたま訪れることのできたここだけを取り上げるのはいかがなものかとためらっているうちに3年たってしまった。しかし、戦争というものを多面的に考えさせるその展示から受けた衝撃はいまも鮮やかだ。賛美するでも忌避するでもなく、現実を知らせようとするスタンス。家族連れで楽しんでもらえるように、親しみやすくおしゃれな展示。入場無料。こういう博物館が日本にも必要だという思いは、3年たって募るばかりだ。

IWM Northの外観
IWM Northの入り口

親子連れが気軽に訪れる博物館

 川べりに立つひときわユニークな建物がIWM Northだ。外には戦車がぽつんと展示してあった。中に入ると、幼い子どもたちが係員から説明を聞いている場面に遭遇し、そうか、ここは親子連れで来るような、日本でいえば科学博物館のようなところなのだと認識する。

 この博物館で展示しているのは1914年以降、つまり第一次大戦から現在に至るまでの戦争と紛争の「あらゆる側面」である。展示室の入り口には「戦争がどのように形作られ、人々の暮らしを変えるか、探って発見しよう」と大書してある。

展示室の入り口で係員の説明を聞く親子連れ=2016年7月24日、英国マンチェスター

 基本的には時系列に沿って展示されているが、ユニークな切り口があちこちにある。例えば「スポーツと戦争」。「スポーツは、紛争の世紀の間ずっと、兵士たちにとってきわめて重要なものだった。スポーツは体を鍛え、団体精神を養い、競争心をもたらす。必要とされる度胸、持久力、結束力はいずれも戦争にも役立つものだ。そしてスポーツは兵士たちを戦争のストレスからいっとき解放する役割も果たした」といった説明である。第一次大戦のときは手作りの皮製サッカーボールが使われ、21世紀のアフガニスタン戦争ではプラスチックのフリスビーが使われたそうだ。

 「科学、技術と戦争」というコーナーでは、「20世紀のもっとも重要な科学、医学、技術のイノベーションのいくつかは、戦争から生まれた」とあり、原爆は破滅的な結果をもたらしたが、医学の進歩はすべての人に恩恵をもたらした、と説明する。

「プロパガンダ」を客観的に説明

 「戦争の印象」というコーナーはとくに興味深かった。ポスターや雑誌などが展示され、プロパガンダについて説明されている。「プロパガンダ(虚実ないまぜの情報の組織的拡散)は戦争中においてきわめて重要である。政府は選んだ事実とウソを拡散させるために新聞、ラジオ、テレビ、映画、インターネットを使う。プロパガンダは、国民が喜んで戦いに参加するように、そして敵への憎しみを増すためにも使うことが可能だ。また、敵側に対しても使いうる」。1939年、イギリスは情報省を作り、ここがイギリス国民へのプロパガンダを担当した。ナチスドイツでは「国民啓発宣伝省」が置かれた。これらに関する資料が展示されているが、しかしプロパガンダの説明に「インターネット」という単語も入っていることに注目せずにはいられなかった。これは昔話ではなく、現在も続いていることなのだと来館者に伝えているのである。

 「Never Ending War(終わらない戦争)」というタイトルで指摘しているのは、

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