メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

米国の国防権限法案は沖縄の海兵隊削減に向かうか

米軍基地周辺の水質汚染にも注目の条項が

桜井国俊 沖縄大学名誉教授、沖縄環境ネットワーク世話人

 いま米議会で2020会計年度の国防権限法案の審議が進められ、沖縄はその行方を大変に注目している。上院で可決した法案は「沖縄の海兵隊の削減は急務」とし、在沖海兵隊のインド太平洋地域における分散配置計画の再調査を国防総省と政府監査院(GAO)に求める条文1255条が含まれているからだ。下院で可決した法案にはこの条項はないが、現在、両院は相違点の調整のための協議を進めており、一本化後両院で可決し、大統領が署名して成立する。最終案に再調査要求が残るか否かがカギである。

河野太郎防衛相(左)に辺野古移設断念の要望書を手渡す玉城デニー知事=2019年9月29日、沖縄県庁、山下龍一撮影
 そこで再調査要求の実現に向け、いま沖縄から様々な働きかけが米議会に対して行われている。第一には、8月17日に米ワシントン州スポーケーン市で開かれた「ベテランズ・フォー・ピース(VFP=平和を求める元軍人の会)」の第34回年次総会で琉球・沖縄国際支部が決議を提起し可決され、それを踏まえて同支部は米議会上下両院の軍事委員会委員長・筆頭理事宛に1255条を支持する旨の文書を送付した。

 同文書は、再調査を通じて国防総省と政府監査院が明らかにすべき辺野古新基地問題のポイントは何かについて具体的に指摘している。特に注目すべきなのは、辺野古大浦湾には2つの活断層があるとの報告がある一方で沖縄防衛局はそれを問題なしとしているが、国防総省が辺野古弾薬庫での核兵器の貯蔵を望んでいるというのがもし本当だとすれば、活断層であるか否か国防総省自身で判断する必要があるのではないかという指摘である。元軍人の会ならではの国防総省の論理に踏み込んだ指摘といえよう。国防総省の高さ規制を超える障害物が新基地周辺に多数存在するという指摘も同様である。

沖縄の市民からの声と知事の動き

沖縄環境正義プロジェクト吉川秀樹氏
 第二の働きかけは、沖縄環境正義プロジェクトの吉川秀樹氏が起草し、沖縄・日本・米国の33の市民団体の賛同を得て9月13日付けで米議会上下両院の軍事委員会委員長・筆頭理事宛に送付された上院案1255条を支持する旨の声明である。この声明では、辺野古案の再検証が必要な理由を5点指摘している。第一は、「沖縄の民主主義の声」を聴くべきこと、第二は、辺野古・大浦湾が「環境保全に重要な場所」であること、第三には「軟弱地盤に係る工事の問題」があること、第四には「埋め立て承認に係る訴訟」が進行中であること、そして第五には、「国際社会とアジア・太平洋地域の国々の目」があることである。

 そして第三の動きは、沖縄県の玉城デニー知事が米国防権限法の成立前にも米国を訪問し、米議会に働きかけようと検討を進めていることである。訪米は14日を計画。知事は在沖海兵隊の配置や普天間飛行場の辺野古移設について、見直しを訴える構えだ。

基地起源のPFOS・PFOA汚染、米で規制へ

 上に見たように2020年度国防権限法でまず注目されているのは、在沖海兵隊の分散配置計画の再調査を求める上院案1255条の行く末であるが、沖縄県内の米軍基地周辺で問題となっている有機フッ素化合物PFOS・PFOA(泡消火剤として使用されている)による水質汚染に関しても注目すべき条項が含まれている。

住宅地に囲まれる米軍普天間飛行場=2019年9月10日、沖縄県宜野湾市、堀英治撮影
 具体的には、国防長官は米軍基地及びその周辺のPFOS・PFOAで汚染された水の調査を行い、それに基づく浄化計画を国防権限法が成立してから180日以内に策定しなければならないと述べている(上院案1075条)。
・・・ログインして読む
(残り:約1630文字/本文:約3082文字)