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迷路に入った核軍縮と2020年の日本のゆくえ

今こそ核兵器依存から抜け出し、真の平和に向けた対話による信頼関係を築け

鈴木達治郎 長崎大学 核兵器廃絶研究センター(RECNA)副センター長・教授

 2020年が明けた。昨年の「核」をめぐる国際情勢は、一言でいえば「迷路に入った1年」であった。なによりも、冷戦時代に締結された中距離核戦力(INF)全廃条約の破棄は衝撃的だった。一方、2018年に歴史的首脳会談を行った米朝・南北朝鮮の関係も、昨年は進展なく終わってしまった。さらに、2017年に「核兵器禁止条約」が採択されて以降、核兵器国と「核の傘」国は条約に背を向けて、非核保有国との溝は広がる一方である。

 この中で、日本の針路も全く見えてこない。2020年は戦後75年、核不拡散条約(NPT)締結50周年という節目の年だ。どうすれば、核兵器のない世界にむけて一歩でも進むことができるのだろうか。

米ロは核軍縮の対話を復活させよ

 INF全廃条約の破棄以降、次に懸念されるのが、2021年2月に期限を迎える新START条約の延長問題だ。今のところ、ロシアは対話の姿勢を見せているものの、一方で新たな極超音速弾頭ミサイルの開発を進めるなど、緊張緩和には程遠い。米国は、トランプ政権になって「核兵器の使用も辞さない」政策に転換し、やはり「より使いやすい、小型で精度の高い核兵器」の開発に取り組んでいる。このままでは相互の不信感が消えないまま、新START条約も消滅してしまう可能性が高い。

核兵器禁止条約の早期発効を求める被爆者団体などの人たち=2019年7月6日、広島市
 そうなると、冷戦以降、米ロの核軍縮路線を形づくってきた法的秩序がすべて消えてしまうことになる。トランプ政権は、INF全廃条約破棄の理由の一つに中国の核軍拡(中距離弾道ミサイルの増産)を挙げて、中国にも米ロの核軍縮枠組みに入るよう要請しているが、中国にはそれに応える様子はない。米国のミサイル防衛に対抗して、「最小限の核抑止力」も拡大せざるを得ないという判断だ。中国の核戦略はインドにも影響を与えており、ひいてはパキスタンの核軍拡にもつながっている。核保有国が核兵器と核抑止力を安全保障政策の柱としている以上、イスラエルや北朝鮮といった国が核保有にしがみつくのもある意味で仕方のないことだ。

 すなわち、米ロが核軍縮対話を進め、安全保障政策における核兵器の役割を低減させない限り、世界の核軍縮は進まないのである。米ロの対話の復活は、世界の核軍縮にとっても不可欠な要素であり、米ロにとっても、新たな核軍拡競争を避け、核戦争のリスクを低減させることにつながる。さらに冷戦時代と異なることとしてサイバー兵器やAIといった先端技術を用いた新たな「大量破壊兵器」の導入も危惧されており、こういった分野でも対話の開始が求められる。

NPT体制の維持と「核と安全保障」をめぐる対話促進を

 NPTが1970年に発効しており、2020年に50年目を迎える。2015年の再検討会議では最終文書合意に至らず、2017年の核兵器禁止条約採択を経て、核兵器国や「核の傘」国と非核保有国のあいだで溝は広がっている。核兵器禁止条約は現在、34カ国が批准しており、おそらく早ければ今年にも条約の発効に必要な50カ国に達成するだろう。核兵器国と「核の傘」国は、核兵器禁止条約がNPTを弱める条約であるとして敵視してきたが、もはやそういった言い分だけでは説得力を持たない。禁止条約が発効することを前提に、どうやってNPT体制を維持し、そしてNPT第6条の軍縮義務を遂行していくか、真剣に考え始めなければならない。

初会合する核軍縮賢人会議=2017年11月27日、広島市、上田幸一撮影
 その一つのヒントが、日本政府が設置した「核軍縮の実質的な進展のための賢人会議」(以下賢人会議)の提言である。
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