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沖縄防衛局がコロナ禍のさなかに、辺野古の設計変更を申請

軟弱地盤の地盤改良は技術的に深刻な問題を抱えている

桜井国俊 沖縄大学名誉教授、沖縄環境ネットワーク世話人

 新型コロナウイルスは世界を席巻してパンデミック(世界的流行病)となり、危機に臨んだ際のリーダーたちの資質の差を否応なく人々の前に明らかにした。米国のトランプ大統領は、事態を甘くみて米国を世界最大のコロナ被災国としたが、責任を回避するため中国とWHOの非難に血道をあげている。しかし、手の消毒液にはウイルスを殺す力があるのだからこれを注射すればよいと発言して、無知を全世界の前に曝け出した。一方、ドイツのメルケル首相やニュージーランドのアーダン首相は、国民に寄り添い一緒に戦おうとする揺るぎない姿勢で目を見張るようなリーダーシップを発揮した。

コロナ危機で鮮明になる政権体質

 それではわが安倍首相のコロナ危機対応はどうだっただろう。オリンピック東京開催に固執して緊急事態宣言発令の決断が遅れ、費用対効果が疑わしいアベノマスクで顰蹙を買った。ところが日本人の国民性もあり、強制力のない外出自粛要請がそれなりに効果を発揮してオーバーシュートがどうやら回避され、決定的な失態はないかに見える。

新型コロナウイルスの影響で工事が止まった辺野古=2020年4月28日、沖縄県名護市、朝日新聞社機から、恵原弘太郎撮影
 しかし、危機に乗じて火事場泥棒的に無茶を通そうとする政権の体質は今回のコロナ危機でも遺憾なく発揮された。第一には安倍政権の宿願である憲法改正である。今年の憲法記念日は、新型コロナを巡る緊急事態宣言が発令中という異例の状況で迎えることとなり、改憲派も護憲派も大規模集会を開かずインターネットで主張を配信した。安倍首相は、コロナを枕ことばにして「国会の憲法審査会で緊急事態条項の議論を進めるべきだ」との持論を主張したのである。

 あと一つ、沖縄の市民からみて許しがたいのが、コロナ渦中の4月21日に国(沖縄防衛局)が辺野古新基地設計概要変更申請を行ったことである。国中が新型コロナ禍で大騒ぎとなり、4月7日に政府が緊急事態宣言を行い、そして沖縄でも4月20日に玉城デニー知事が県独自の緊急事態宣言を発表する中で、4月21日、沖縄防衛局は、大浦湾における地盤改良工事に伴う埋立変更承認申請書を沖縄県に提出した。翌4月22日の地元紙琉球新報は、「コロナ渦中に申請 対立新たな局面へ」と特大の見出しでこのニュースを伝え、「工事中断しコロナ対策を」という玉城知事の発言を報じた。

 ドサクサに紛れて米国との約束である新基地建設を前に進めようとしたのだが、これはまさに血税をドブに捨てる行為以外の何物でもない。後述するように大浦湾の軟弱地盤を改良できる技術的見通しが立っているとは言い難く、しかも国の当初計画では3,500億円であった工事費がこの設計概要変更で2兆5,600億円(沖縄県の推定)にも膨れ上がることとなるからだ。それでなくともコロナ禍への対応に十分な予算措置が講じられているかが問われている現在、巨額の血税を技術的にも疑問がある辺野古埋立に投入する件に国民は無関心であってはなるまい。

技術的な疑問にはほおかぶり

 国(沖縄防衛局)が設計概要変更申請を行ったのは、辺野古新基地建設を進める大浦湾には当初想定していなかった軟弱地盤があり、設計概要を変更して地盤改良を行う必要があること、また設計概要を変更するにあたっては公有水面埋立法13条の2に基づき知事の許可が必要だからである。しかし国は、今回の申請に際し、軟弱地盤の地質をしっかりと把握したうえで地盤改良工事の設計を行ったとは言い難い。

辺野古の埋め立て工事と地盤のイメージ
 沖縄防衛局が技術検討会(防衛省が設置。8名の委員のうち少なくとも4名は受注業者からの寄付を受け取っており、その中立性・第三者性には疑問が呈されている)に提出した資料を分析し、軟弱地盤の地質の把握が不十分だと指摘してきたのは、辺野古問題に深い関心を有する技術者らからなる「沖縄辺野古調査団」(代表:立石雅昭新潟大学名誉教授)である。争点となっているのは、大浦湾の最深部に設置するケーソン護岸(C-1護岸)の法線位置にある最も重要なB27地点の地盤強度である。
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