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米国のファーウェイ輸出規制強化は何をもたらすか

米国自身が築いた半導体サプライチェーンを破壊、誰も幸せにしない

倉澤治雄 科学ジャーナリスト

ファーウェイ南方工場メインビルディング=2019年12月13日、中国東莞市松山湖、筆者撮影

輸出規制開始1年で、さらに規制を強化

 米国が中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)に対する禁輸措置に踏み切ってちょうど1年となる2020年5月15日、輸出規制のルールがさらに強化された。これまで米国の技術や部品が25%以上含まれる製品の輸出と再輸出が事実上禁止されてきたが、さらに米国製のソフトや製造装置を使った製品の再輸出も制限できるようにルールを変えたのだ。サプライチェーンの分断を進める措置である。

 米国という超大国がファーウェイをかくも執拗に潰しにかかる理由については、今一つはっきりしない。米司法省は法人としてのファーウェイと孟晩舟CFOをすでに起訴しているが、起訴事実はイランや朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)との取引や司法妨害に関わるもので、よく聞かされる「安全保障上の脅威」や「バックドアを仕掛けている」という主張については、いまだに一切証拠が示されていないのである。

 ジョージタウン安全保障先端技術センターのエルザ・カニア・リサーチフェローは、ファーウェイの5G技術力が中国人民解放軍の諜報能力、戦場での通信能力のインテリジェント化(「軍事智能化」)を格段に向上させる恐れがあると主張している(Defense One Today 2019年1月8日)。米国政府の認識はこれに近いものだろう。事実、元CIA(中央情報局)、NSA(国家安全保障局)の職員だったエドワード・スノーデンが暴露したファーウェイに関するデータの中にも、「ファーウェイ製品による通信インフラの拡大が、中国人民解放軍のSIGINT(通信傍受を主体とする諜報活動)能力やDoS(Denial of Service=運用妨害)攻撃能力を高めるのではないか」との懸念が記されている。

 果たしてファーウェイは米国の厳しい締め付けをかわすことができるだろうか。サプライチェーンの分断は世界にどのような影響をもたらすのだろうか。筆者はファーウェイの本拠地を昨年3月、5月、12月と3度取材し、この問題を考え続けてきた。はっきりわかったことは、米中のデカップリング(分離)は、米中を含む世界の国々や企業、ユーザーを決して幸福にはしないということだ。

ファーウェイへの半導体供給を止める

 米国が昨年5月に始めた輸出規制は、ファーウェイを輸出管理規則に基づく「エンティティ・リスト(禁輸措置対象リスト)」に加えたことだった。形式上は政府の許可を得れば輸出は可能だが、申請は原則として却下(Presumption of Denial)されるので、事実上の禁輸措置だ。米国製品だけでなく、米国の技術や部品が25%以上含まれる製品は輸出と再輸出が規制されることになった。日本企業も対象に含まれる。これによりファーウェイの最新鋭スマートフォンからGoogleマップ、Gメール、YouTubeなどのアプリが消えた。

 1年後の今年5月15日、米商務省はファーウェイが輸出規制を「すり抜けている」として、輸出管理規則を変更した。

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