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温暖化問題への真山仁氏の大きな認識不足

エネルギー大転換に気づかない日本社会の反映なのか

明日香壽川 東北大学東北アジア研究センター/環境科学研究科教授

 6月16日朝日新聞のオピニオン欄で作家の真山仁氏が「Perspectives:視線」というシリーズで温暖化問題に関する文章を寄稿している。ご存じのように、真山氏は『ハゲタカ』などの小説で知られており、私もファンの一人である。おそらく、基本的には原発には反対の立場であり、再生可能エネルギー(再エネ)の一つである地熱に強い思い入れを持っている(『マグマ』という地熱をテーマにした素晴らしい小説も書いている)。

「真山仁のPerspectives:視線」温暖化問題(2020年6月16日の朝日新聞朝刊)「真山仁のPerspectives:視線」温暖化問題(2020年6月16日の朝日新聞朝刊)

 ただし、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリの紹介から始まる前述の文章に関しては、地熱への思い入れが強すぎるせいか、今の温暖化問題やエネルギー問題に関するダイナミックな動きや全体像への認識不足がある。そのため、彼の意図に反して、温暖化対策に消極的な人々や原発を推進したい人々に塩を送るような内容となってしまっている。

太陽光、風力、ベースロードに対する誤解

 真山氏は、先の文章の中で「再エネと言えば、世界のトレンドは、風力発電や太陽光発電にあるように言われている。だが、風力発電は風任せで、常時発電は不可能だ。また、太陽光発電も、晴天の昼間しか発電できない。これらの再エネ発電は、電力不足解消の一助にはなるが、ベースロード電源にはなり得ない。火力発電や原発が、バックアップしているのが現実だ。」と書いている。

 しかし、現在、エネルギー世界は大きく変化している。今や世界の発電インフラ投資の約8割は再エネであり、再エネが電力全体に占める割合も、2019年には27%以上になった。特に太陽光と風力の導入量は著しく増加しており、デンマーク、ウルグアイ、アイルランド、ドイツの4カ国では、電力の30%以上が太陽光と風力による。このような変化の最大の理由は、太陽光や風力のコモディティー(商品)化による圧倒的な価格破壊だ。すでに多くの国・地域で太陽光や風力が最も安い発電エネルギー技術であり、国によっては、太陽光や風力の導入コストは、既存の石炭およびガス火力発電所の運転コストよりも安くなっている。

 このため、ベースロード電源という言葉は、エネルギー・システムの研究者の間では死語になりつつある。そもそも原発を含めたどのような電源にも、供給が停止した場合に備えて、バックアップなどの何らかの対策は必要である。また、太陽光や風力の場合、発電量の拡大と同時に、その変動する発電量の予測・管理技術が発達し、対策として広域での電力融通やデマンド・レスポンス(需要側の電力使用管理)も可能となっている。電力を貯蔵するバッテリーの価格低下も激しく、IoT技術を駆使して需給バランスを総合的に調整するビジネスモデル(アグリゲーター・ビジネス)が日本でも拡大している。

省エネ・温暖化対策の後進国ニッポン

 真山氏は「CO₂は、人間が快適な暮らしをする限り、減りようがないからだ。グレタさんが活動する前から日本やヨーロッパは、涙ぐましいまでに省エネ対策を講じ、CO₂の排出を削減すべく、やるべきことはしてきたのだ。」とも書いている。この短い文章の中にも、明らかな間違いが三つある。

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