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誤解の多い種苗法改正案、その狙いと影響度を探る

優良品種の海外流出をどう食い止めるかに知恵を絞ろう

小島正美 食・健康ジャーナリスト

平昌冬季五輪でハーフタイムにイチゴを食べながら作戦を練る日本のカーリング選手たち=2018年2月24日、江陵カーリングセンター、北村玲奈撮影
 先の通常国会での採決が見送られ、継続審議となった種苗法改正法案。農家を守るのか潰すのか、新聞やネットでは賛否の議論がにぎやかだが、法案への誤解も多く、何が肝心な論点かがどうにも分かりにくい。そもそも改正法案の狙いとは何なのか、改正されると何がどう変わるのか、当事者に取材しながら考えてみた。

韓国冬季五輪で見られた驚きの光景

 まずは、なぜ、法改正が必要になったかの背景を知っておきたい。

 2018年に韓国で行われた平昌冬季五輪の女子カーリングで選手たちが「もぐもぐタイム」と称して、イチゴを頬張っていた光景を覚えている人は多いだろう。あのおいしそうなイチゴは日本で開発されたブランドイチゴ「章姫」などの品種をもとに韓国で交配されて生まれたイチゴだった。

 つまり、日本で多大な労力と時間をかけて開発され、国に登録された品種(登録品種)が韓国に流出し、無断栽培が拡大していたのだ。いつの間にか日本から流出した品種同士の交配で作られたイチゴが韓国で増え、いまでは韓国で栽培されているイチゴの9割近くは日本の品種がもとになっているというから驚く。

 しゃきっとした食感の高級ブドウで知られる「シャインマスカット」も韓国や中国で無断栽培されている。このブドウは、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)が長年かけて開発した登録品種である。

改正法案の狙いは育成者の保護

 こうした信じがたい現象をどうやって防げばよいのだろうか。

 そのために考え出されたのが、種苗法改正案だ。新品種をつくりだし、国に登録した育成者(正式には育成者権者というが、育成者で統一)に対して、改正後は、その知的財産権を尊重し、育成者の「許諾」のもとで「自家増殖」を認めていこうというのが改正の最大の狙いだ。育成者としては個人、会社、自治体、公的機関がある。自家増殖とは、正規に購入した登録品種の種苗を育てて、その収穫物の一部から、自分で種苗を採取して栽培する営みを言う。

今年のシャインマスカットの初競り=2020年7月2日午前、大分市豊海4丁目、中沢絢乃撮影

 これまで農家の自家増殖は自由だった。だが、私の個人的な感覚では、シャインマスカットやコメの「つや姫」のような優良な登録品種でさえも自由に自家増殖ができていたということ自体がまず驚きである。自家増殖するからには、育成者にひと言「よろしく」と許諾を得るのが常識のように思える。その常識が通るようにするのが改正案である。

 ネットなどでしばしば誤解されているが、自家増殖そのものが禁止されるわけではない。育成者の「許諾」をとれば、自家増殖は可能である。改正案は

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