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理系の男女格差が縮まらない日本の問題点

教育環境のジェンダー平等を進めてきた欧米に見ならい、小中高の教育の変革を

河野銀子 山形大学教授(教育社会学、ジェンダー研究)

女子中高生に最先端の理学研究に触れてもらおうと開かれた立教大の「チャレンジ・ラボ」。この日は、学部や大学院の女子学生(右)がアシスタント役を務め、ルミノール反応の実験をした=2019年9月28日、東京都豊島区の立教大学、三島あずさ撮影

後れている科学技術・学術分野での男女共同参画

 日本の男女共同参画の歩みが遅い。女子の理系進路選択や女性研究者支援政策の国際比較研究に取り組んできた筆者にとっては、とりわけ科学技術・学術分野の男女共同参画の後れが気がかりである。

 女性研究者が理系分野で少ないことは、程度の差こそあれOECD諸国に共通してみられる問題である。しかし、日本と欧米各国には大きな違いがある。それは、欧米各国では女性研究者の増加を目標とした実効性のある対策がとられてきたという点である。それらは、小中高校における教育のジェンダー問題の解消から始まり、積み残しを明確にしながら段階的に発展してきた。

 その概要を紹介し、日本でとりわけ足りないのは小中高校段階でのジェンダー問題の解消策であることを示したい。女性研究者や研究機関への支援だけでは、科学技術・学術分野の男女格差の問題は解決しないのである。

英国での取り組みは1970年代から始まった

 英国では1975年に性差別禁止法が制定され、これが守られているか監視する「機会均等委員会」の依頼で学校で女子が理系を敬遠する背景を探り改善をめざすパイロットスタディが1979年に始まった。現職教員と研究者が協力して進めたこのプロジェクトは、「教師の行動が女子を科学から遠ざけている」と教師自らが気付くという成果を得た。80年代には理工系職における男女の機会均等をめざすWISE(Women into Science and Engineering)プログラムが始まった。

 英国では理系に特化した調査からスタートしたが、ドイツなど他の国々では教科を問わず同様の試みが行われた。その結果、例えば、教師が授業時間の3分の2を男子とのやりとりに費やし、その間、女子は構ってもらえず結果として「沈黙を学ぶ」 こと等が観察された。これは「3分の2法則」として定式化され、意図的に女子を冷遇しているわけでなくても、毎日毎日、何年も積み重なれば男女差が再生産されることが理解され、教師が自らの教育行為を改善できるようになった。

 これらの研究は、学校が男子に合わせた教育を行っていることを発見し、教師の言動や指導方法だけでなく、教科書や教材・教具のあり方、テストの作成や実施、評価方法などを男女差をなくす観点から再考する契機となった。1990年代には、女子生徒の科目選択や進路選択の多様化を促進する研究が盛んになっていく。

大事なのは個人への対策ではなく教育環境の変革

 一連の研究により、女子の理数系への関心を高めるために有効なのは、女子個人への対策ではなく、学校の教育環境の変革にあることが明らかになった。男子は競争を志向するが、女子は協力を志向する傾向があるので、早くできた人が評価されるなど競争をあおる授業方法ばかりでなく、もっと共同作業を入れる、といった変革の必要性が理解され、女子の関心や経験も取り込んだ教材や授業方法 、教師向け研修プログラム等が開発されるに至る。テスト方式も、

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