メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

日本にもある「郵便投票問題」

在外者のために制度はあれど、投票日に間に合わない「憲法違反状態」

山内正敏 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

米国大統領選で期日前投票を集めるための箱に投票用紙を入れる有権者=2020年10月20日、バージニア州アレクサンドリア、ランハム裕子撮影
 今回の米国大統領選挙では、郵便投票に注目が集まった。そのほとんどは国内での期日前投票だが、それによって接戦州の多くでバイデン氏が勝利をもぎとった。それを見越してか、トランプ大統領が、郵便投票が投票期限に間に合わないよう郵便公社を「改革」するためトップを5月にすげ替えたという噂も流れていた。噂の真偽はともかく、米国ではこんな噂が出るほど郵便投票の重要性が広く認識されている。
2016年のオーストリア大統領選挙の結果

 オーストリアでも、4年前の大統領選挙で同様のことがあった。国外在住者による郵便投票で結果がひっくり返り(左図)、再選挙になって逆転した側が勝利したのだ。ここからわかるのは、郵便投票による逆転が民意を確かに示していたということである。

 日本にも郵便投票制度はある。海外の辺鄙(へんぴ)なところ(具体的には大使館や領事館から遠いところ)に住む日本人が対象だ。最寄りの大使館まで飛行機(1〜2便/日)で1時間半かかるスウェーデンのキルナ市に住む私はその対象だ。だが、投票用紙が届くのが遅く、実情は「投票するな」と言っているに等しい。今回は、その改善策を考えてみたい。

2000年に始まり、その後、改悪された

2013年の衆院選のとき北京の日本大使館で投票する日本人有権者(右)。投票箱はなく、記入した投票用紙を封筒に入れて職員に渡す。投票用紙入りの封筒は郵送ではなく職員が外務省へ運ぶ=2013年7月15日、中国・北京、今村優莉撮影
 日本の郵便投票制度は、1998年(今と同じく自民党政権だったが野党と対話が成り立っていた)に決まった在外投票制度の一環として2000年から実施された。在外投票は大使館や領事館での投票が原則だが、それが困難な場合が対象となった。制度が始まった当初は、公示の前に投票用紙が国際速達(EMS)で配達され、公示の翌日には日本に向けて郵送できていた。

 ところが、10年もしないうちに、公示日以降にしか発送しなくなったのである。公示日は参院選挙では投票日の17日前で、衆院選挙は12日前だ。昔は選挙期間がもっと長かったのだが、「金のかからない選挙」という無意味な口実で短くなってしまったのである。

 その結果、4年前に論座『海外在住者の郵便投票をこれ以上不便にするな』に書いたように、私はスウェーデンという先進国に住んでいるにもかかわらず、毎回間に合うか間に合わないかの賭けを強いられるタイミングでしか投票用紙が届かない。コロナ流行の現在の郵便事情では、間に合わないのが確実だと断言できる。つまり選挙権に関して海外在住者どうしの間で不平等が生じており、「憲法違反」の状態である。

2週間で国際速達が往復するとは限らない

 衆院選挙の投票用紙が

・・・ログインして読む
(残り:約3068文字/本文:約4079文字)