メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

欧州宇宙機関のユニークなアイデア募集方法

まったくの素人でも宇宙ミッションを提案できる

山内正敏 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

一次選考を通過したアイデアの例=ESAのホームページから
 欧州宇宙機関(ESA)が、宇宙ミッション案の全く新しいタイプの募集を行なった。所属・国籍・経験を問わず、全くの素人でも世界のどの国の住民でも出して良いという斬新さだ。

 それを可能にしたのが、新しい形式のwebフォームと評価基準だ。記入項目が箇条書き方式でまとめられ、一番長い欄ですら上限が2000文字(500ワード程度、日本語1000文字に相当)で、全部でA4用紙3ページ程度の情報しか要らない。今まで、本文50ページに付録付きといった完成度の高い提案を要求していたのと対照的だ。

 評価基準は独創性と宇宙業界全般への貢献が重視され、完成度や科学評価、提案チームの多国籍性は入っていない。さらに、過去になかったアイデアを集めるべく、過去の公募で出された案は受付段階で除外する。

 かつて大きな国際チームを率いて長い提案書を書いた挙げ句に無駄な努力に終わった経験のある筆者は、時間の無駄が極端に少ないこの方式にすっかり感心して、思わず参加してしまった。本稿では、なぜこれが素晴らしい試みであるかを説明し、ついでに一次審査を通過したアイデア群を紹介したい。

太陽系に未到対象のない時代

 行ったことのない天体に行くタイプの探査ミッションは、冥王星(米国ニューホライズン計画)・彗星(欧州ロゼッタ計画)・木星本体(米国ジュノー計画)・小惑星サンプルリターン(はやぶさ)で一巡し、「太陽系の大航海時代」が終わった。一応、氷の巨大惑星といわれる天王星・海王星の探査や、日本にとっての初訪問、欧州にとっての初訪問というのは残っているが、いずれも宇宙予算規模に比べて極めて高価となって簡単には実現できない。

 一度訪問した太陽系天体に再度向かうミッションは、初訪問というセールスポイントがなくなるので、科学的価値や技術的価値が鍵となる。しかし、日欧で行けそうな対象(月・火星・金星・小惑星・木星)は、大抵は過去に何度も調査しており、万人に分かりやすい探査目標を前もって提示するのが困難となる。そのため、どのミッションも宇宙の根本問題を扱う天文ミッションほどの幅広い支持を得にくい。技術面にしても、天文ミッションと優劣を付けられず、結果として太陽系探査は科学ミッションとしては通りにくくなる。実際、10年以上通っていない。それは、太陽系探査と結びついた宇宙開発の技術が足踏みすることを意味する。

技術開発を主軸とした多目的ミッションの必要性

 一方、中国・インドなどの後発組は急速に力をつけ、インドは火星探査機の成功に続けて金星ミッションも2024年に計画し、中国は嫦娥シリーズで米国をも慌てさせているほか、去る7月には火星探査機も打ち上げた。

 今までのように、科学的価値だけでミッションを決めては、中国・インドに宇宙開発で抜かれるのではないか? そういう不安を持つのは私だけではあるまい。となれば、初訪問でなくとも、国民の支持を多少なり受けるような世界初の挑戦で、技術的難度の割に準備期間が短く、予算も妥当な範囲(300億円以下)の太陽系ミッションを模索するのは必然だろう。

 ここ10年余り、

・・・ログインして読む
(残り:約1985文字/本文:約3279文字)