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環境だけでなく、社会経済への影響も含めた事前評価を

風力発電がなかなか進まない現状から考える環境アセスメントの将来像

松田裕之 横浜国立大学大学院環境情報研究院教授、Pew海洋保全フェロー

陸上風力発電の風車が立ち並ぶ秋田港周辺=2021年3月24日
 再生可能エネルギーへの期待は日本でも高い。ところが、風力発電は中国や欧米諸国と比べてかなり少ない。太陽光発電は中国に次ぐ二番手グループに入っているのに、なぜ風力発電は進まないのか。理由の一つは、環境影響評価(環境アセスメント=EIA)にあるだろう。日本では太陽光発電がEIA法の対象外だったのに対し、風力は比較的小規模でもEIA手続きが課せられた(論座「環境影響評価で滞る風力発電」松田2017)。

 日本のEIA制度は、環境影響だけを切り離したために、多くの場合にうまく機能していない。世界で増えつつある洋上風力発電を考えても、日本は海に囲まれているものの遠浅の海岸が少なく、沿岸では漁業権漁業が、そして沖合では許可漁業等があるために漁業との調整が必要になる。つまり、「社会経済影響」の事前評価が必要なのである。

 EIA制度は転機を迎えつつあり、環境だけでなく、社会経済影響も含めた包括的な「持続可能性評価」への進化を考えるべき時期にある。それは、社会が取り組むべきことが環境への配慮からより包括的な「持続可能な開発目標」(SDGs)へ進化したことを考えれば、自然な流れといえよう。洋上風力を見ることで、現在のEIA制度の様々な課題と、なすべきことが見えてくる。

日本の風力発電の現状は

 日本の風力発電が少ない理由を、より細かく見てみよう。陸上風力は、住宅地の近くか自然公園のそばが多く、どちらも反対運動が起きやすく、事業中止になったり、EIA手続きに時間がかかったり、環境大臣意見で事業縮小を求められたりする。また、日本では発電と送電の分離が進まず、発電業者が電力会社の電力系統に発電した電力をつなぐ系統接続が問題になる。EIA手続きが遅れると、当てにしていた系統接続が確保できない恐れも生じる。

 では、洋上風力はどうか。2019年4月に「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律」(再エネ海域利用法)が施行された。これまで海域の占用に関する統一的なルールがなく、洋上風車群を作った場合の漁業や海運業など先行利用者との調整の枠組みが存在しないことから策定された法律である。そして、「洋上風力実施のための自然的条件が適当であること」「先行利用に支障を及ぼさないこと」「電力の系統接続が適切に確保されること」などの要件に適合した区域を国が「促進区域」に指定し、その区域内で洋上風力事業者を公募し、最大30年間の占用許可を得ることができるようにした。

図1:再エネ海域利用法による促進区域案(赤)、有望な区域(橙)、一定の準備段階に入っている他の区域(緑)=2020年7月現在、経済産業省・国土交通省資料より
経済産業省・国土交通省資料

 法施行後の2019年7月に11区域が「一定の準備が進んでいる区域」、うち4区域が「有望な区域」として公表され、同年12月に長崎県五島市沖、20年7月に秋田県能代市・三種町・男鹿市、同県由利本荘市沖(南側と北側)、銚子市沖が「促進区域」に指定された(図1)。促進区域となるためには上記の条件に加えて、利害関係者を特定した「協議会」を開始すること、系統接続を整備することが条件である。

着実に進んできた洋上発電への取り組み

 この法律の施行に先立ち、

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