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地域からの脱炭素への期待:地域脱炭素ロードマップを考える

再生可能エネルギーの導入は地域の経済循環や地方創生にも重要だ

松下和夫 京都大学名誉教授、地球環境戦略研究機関シニアフェロー

 日本の2050年脱炭素社会への取り組みは、首相の所信表明というトップダウンで始まった。しかしながら脱炭素社会への移行は、科学的知見に裏打ちされた危機意識に基づく市民や地域社会、そして自治体や産業界も含むボトムアップの取り組みがあってこそ可能となる。

 その中核となるのが地方からの取り組みだ。すでに東京都、横浜市など514自治体(40都道府県、306市、14特別区、130町、24村)が「2050年までのCO₂排出量ゼロ」を宣言している(環境省資料参照)。表明した自治体を合計すると人口は約1億1250万人となる(2021年12月28日現在)。これらの自治体では、今後、温室効果ガスネットゼロ社会の目標達成に向けた具体的な政策や取り組みを進めることが課題だ。

 環境問題の解決を図りながら、コロナ禍で傷ついた経済を立て直し、将来の世代が豊かに生きていける社会を実現するため、「脱炭素社会への移行」「循環経済への移行」「分散型社会への移行」という三つの移行を地域から加速させ、持続可能で強靱(きょうじん)な経済社会を構築していく必要がある。そして、各地で、地域循環共生圏の考え方に基づいた新たな地域づくりで三つの移行を具体化していくことが重要だ。その先に2050年ネットゼロ社会実現に向けた戦略が見えてくる。

「地域脱炭素ロードマップ」への期待

 我が国は、限られた国土を活用しながら、再生可能エネルギーの導入拡大を進めてきた。この結果、面積あたりの太陽光設備導入容量は主要国でもトップレベルとなっている。他方、現状では、コストや適地の確保、環境との共生など、課題が山積している。このため、地域の豊富な再生可能エネルギーのポテンシャルを最大限に引き出し、再生可能エネルギーを主力電源化していくため、課題を乗り越え、地域にメリットがある形で持続的に導入が拡大していくような取り組みが重要である。

 政府は、2021年6月の国・地方脱炭素実現会議で「地域脱炭素ロードマップ」を決定した。そしてこのロードマップに基づき、令和4(2022)年度の予算要求として、「地域脱炭素移行・再エネ推進交付金」が計上されている(令和4年度要求額 200億円〈新規〉)。これらの枠組みによる地域からの脱炭素社会への移行への取り組みの具体化が期待される。以下その内容の紹介と考察を行う。

「地域脱炭素ロードマップ」のキーメッセージ

 「地域脱炭素ロードマップ」のキーメッセージは、地域脱炭素を通じ、地域課題を解決し、地域の魅力と質を向上させる地方創生に貢献することである(図)。その特色は①今ある技術で取り組める、②再エネなどの地域資源を最大限活用、③地域の経済活性化・地域課題解決に貢献、である。

 このロードマップでは、特に2030年までに集中して行う取り組み・施策を中心に、地域の成長戦略ともなる地域脱炭素の行程と具体策を示している。そして2030年度目標及び2050年カーボン・ニュートラルという目標に向け、今後5年間に、政策を総動員し、国も人材・情報・資金の面から、積極的に支援することとしている。

 これにより、2030年までに少なくとも脱炭素先行地域を100カ所以上創出する。さらに脱炭素の基盤となる重点対策として、自家消費型太陽光発電や省エネ住宅などを全国で実行することで、地域の脱炭素モデルを全国に伝搬し、2050年を待たずに脱炭素達成を目指す。

 脱炭素先行地域では、地方自治体や地元企業・金融機関が中心となり、地域特性等を活(い)かして、地域課題を解決し住民の暮らしの質を向上しながら脱炭素に向かう先行的な取り組みを実施するとともに、環境省を中心に国も積極的に支援する。このような考え方で、脱炭素先行地域の要件については、地域が主体となり、地域特性に応じた効果的な手法を活用する。民生部門すなわち家庭部門や業務その他部門の電力消費に伴うCO₂排出実質ゼロを実現し、運輸部門や熱利用等についても、国全体の2030年度目標と整合する削減を地域特性に応じて実現する。これらの実現の道筋を、2025年度までに立て、2030年度までに実現していく。

 具体的には、地域特性や気候風土に応じて、再エネ、省エネ、EV(電気自動車)/PHEV(プラグインハイブリッド車)/FCV(燃料電池車)の利用、カーボン・ニュートラル燃料の使用など適切な対策を組み合わせて実行する。

地域脱炭素の重点対策

 脱炭素に向けて、地方自治体・事業者が何をすべきで、できるのか、

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