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科学振興のための草の根組織がついに日本でも誕生

日本科学振興協会(JAAS)が盛大にキックオフ

高橋真理子 ジャーナリスト、元朝日新聞科学コーディネーター

JAASのキックオフミーティングのパネルディスカッション「日本の科学をもっと元気に:誰もが科学する社会を創ろう!」=2022年6月19日、国際交流会議場、日本科学振興協会(JAAS)提供
 「日本の科学を、もっと元気に!」を合言葉にする日本科学振興協会(JAAS)の総会・キックオフミーティングが、2022年6月18~24日にリアル(東京都江東区青海の国際交流会議場)とオンラインを組み合わせる方式で開催された。

 若手研究者が草の根的に集まり、「分野、組織、職種・職階、世代の垣根を超え、科学の振興に意欲を持つすべての人々が参加することのできる組織」をつくる準備委員会を結成したのが昨年2月。今年2月に特定非営利活動(NPO)法人としてJAASが誕生し、ついに迎えたキックオフイベントだ。1週間という長丁場の中で、主催者側からしばしば発せられたのが「楽しんでください」という呼びかけ。何かにつけ「お上に頼る」発想にどっぷりつかっていた「日本の科学」が、「もしかすると変わるかもしれない」と感じさせるイベントだった。

「日本版AAAS」を目指した

 準備委員会の名前は「日本版AAAS設立準備委員会」だった。AAAS(トリプル・エー・エス)とはアメリカ科学振興協会のこと。この協会は雑誌「サイエンス」の発行者であるとともに、あらゆる分野の科学者が集う組織として活発に政策提言や情報発信をしている。年に1度の年会が全米各地をめぐる形で開かれ、地元の市民や学生向けのイベントも多数あり、「科学の祭典」といった様相を呈している。

 創設は1848年と古い。当初は何度かつぶれかけたが、雑誌「サイエンス」を発行するようになって安定した活動ができるようになった。「サイエンス」の方も学術団体が発行するということで信頼度が増し、両者はウィンウィンの関係になっている。

2004年にスウェーデン・ストックホルムで開かれたESOFでは、街中で一般向けのイベントもあった=2004年8月27日、高橋真理子撮影

 欧州が同様の組織を作ったのはぐっと時代が下がって1997年のことだ(ちなみに「サイエンス」と並ぶ科学雑誌の「ネイチャー」は1869年に創刊されたイギリスの「商業誌」である)。創設された組織は「ユーロサイエンス」という名前で、ここが2004年から2年おきに欧州各地をめぐって「ユーロサイエンスオープンフォーラム(ESOF)」を開いている。

 欧州の動きを見て、日本が2006年から始めたのが「サイエンスアゴラ」だ。毎年11月に開かれ、「科学の祭典」と言えるイベントだが、欧米と異なるのは開催場所が東京・お台場地区に固定されていることと、運営するのが科学技術振興機構(JST)という政府機関であることだ。

 日本の科学者の組織として思い浮かぶのは日本学術会議だろう。これはいわゆる「アカデミー」で、国を代表する科学者の機関と位置付けられる。米国でこれに相当するのは米国科学アカデミー(NAS)だ。アカデミーは科学者だけが会員となれるが、AAASやユーロサイエンスは科学に関係するビジネスやNPO、行政、メディアなど全方向に開かれている。だから、科学と社会のコミュニケーションを進めるという点ではこちらが主役で、人々にとって身近な存在ということになる。

「あったらいいな」から「作ろう」へ

 日本の研究力が落ちているという指摘が盛んにされるようになり、

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