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「学ぶ」と「暮らす」がつながり、混じり合う教育を実現するために

英国の小さな大学院大学「シューマッハー・カレッジ」で学んだこと 上

宮﨑紗矢香 人間活動家

 学校をつくりたい。

 去年の夏に会社をやめて、真っ先に思ったことはこれだった。

 既存の教育システムは、今や社会のあらゆるところに弊害をもたらしている。大学では、多くの学生がエコロジーを学ぶことなく、エコノミーを学んでいる。その結果、経済や産業にとって都合のいい人材が大量生産され、地球温暖化や生態系の喪失に始まるような、環境破壊をも生み出す結果を招いている。

 この現状を変えなければいけない。

 大学を卒業し、会社に就職してわずか1年半しか経過していなかったが、当時23歳の自分にとって、それは確信だった。

 あれから1年。

豊かな森の中にあるシューマッハー・カレッジの入口=2022年7月、英国南部デボン州トットネス豊かな森の中にあるシューマッハー・カレッジの入口=2022年7月、英国南部デボン州トットネス
 英国南部の地で、世界的に知られるエコロジーの知の拠点に足を踏み入れながら、自分の直観は間違っていなかったと再認識した。

 その場所の名は、シューマッハー・カレッジ。

 1973年に出版された『スモール イズ ビューティフル』の著者であり、経済学者E・F・シューマッハーの名前と思想を受け継いで生まれた大学院大学だ。

 つながりや人々の幸せを前提に考えた、新しい経済学を学べる場所。自然環境と調和した生き方を育む、先駆的なコミュニティー。先行きが見通せず、「現状維持」が困難な転換期の今。国際社会が目指すべき、オルタナティブな世界がそこには存在していた。

 私たちはどう生き、どう暮らし、どう学ぶのか。

サティシュ・クマールとの問答サティシュ・クマールとの問答
 7月1日からの1週間、私が見てきたものは、これからの自分の人生に大きな示唆を与えるものだった。2カ月が経った今、改めて振り返ってみても、この好機に巡り合えたことに感嘆している。

 コロナ禍、意を決して訪れた海外での短い旅路を、ここに記したい。

 〝ふつうの大学では、教室に行けば、壁には黒板、机にはコンピューターのスクリーンがあり、講義をしてくれる教師がいる。授業が終わると、学生はアパートか寮に戻って、そこで暮らす。つまり、学ぶことと暮らすこととのあいだには関係がない。しかし、このふたつはもっとつながり、混じりあっているべきではないだろうか。理論と実践は合流すべきだろう。この考えかたをホリスティックな教育という。ラーニング・バイ・ドゥーイング、つまり、「すること」を通して学ぶのだ。シューマッハー・カレッジは家であると同時に、コミュニティーだ。自然と人びと、そして周辺地域との調和を、私たちは目指す。お互いを敬って、助けあい、支えあうことを学ぶ。いわば、地球という家、そして自然というコミュニティーを身近なところに小さく実現するのだ〟サティシュ・クマール『エレガント・シンプリシティ「簡素」に美しく生きる』

学校は左脳を使う教育だけ

 シューマッハー・カレッジのエッセンスは、「ホリスティック」にある。カレッジの創始者であり大学の精神性を育ててきた、インド人哲学者サティシュ・クマールは、「考えること(Head)」「感じること(Heart)」「つくること(Hand)」の3Hを理念に掲げ、全身を使って学ぶ重要性を説く。

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