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2022年の宇宙ニュースをふりかえる(下)

民間参入とゴミで過密化する宇宙空間

山内正敏 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

 前稿に続いて2022年の宇宙開発ニュースを回想する。本稿では民間計画や成果を述べる。

衛星画像の技術:全球リアルタイムに迫る功と罪

 2022年1月のトンガの火山噴火は、地球科学的に世紀の大事件だったが、同時に、噴火の様子が衛星写真の動画として、1日以内に素早く公開されたことも特筆すべきことだった。以前の「災害等の前後比較」や「たまたま取れた写真1枚」と一線を画する即時性と質だったからだ。

気象衛星「ひまわり8号」が撮影した海底火山の噴煙=2022年1月15日午後2時、情報通信研究機構(NICT)提供
噴火翌日、ニュージーランド上空を通りかかった国際宇宙ステーションから見えたトンガの噴火の噴煙=NASA飛行士のケイラ・バロンさん撮影

 衛星写真の「準リアルタイム」性はウクライナ戦争で顕著になった。衛星画像やデータのお陰で、ロシア軍の動向が1日単位で筒抜けとなり、ウクライナ軍による抵抗をより有効にした。地対空ミサイルのポータブル化で制空権という言葉が死語になった現在、宇宙空間が偵察の主戦場なのだ。そこで活躍しているのはスパイ衛星だけではない。民間衛星や実用衛星の画像による寄与も大きい。これら大量のデータを解析する技術もまた急速に発展しているからだ。

 もっとも、これは諸刃(もろは)の刃だ。軍隊の動向だけでなく、10年以内には外出中の全国民の姿・行動を、単独企業ですら把握できるようだろうからだ。衛星による画像・通信同時監視となれば、もはやディストピアだ。今後の戦争を防止するかも知れないが、プライバシーが失われる。どこかの段階で法律や条約で制限しないと、益より弊害のほうが大きくなろう。不幸にして、世界中の宇宙機関は国連も含めて宇宙ゴミ対策で精いっぱいで、プライバシーまで議論が追いつかない状況だ。

「はやぶさ2」が持ち帰ったサンプル

 解析といえば、はやぶさ2の持ち帰ったサンプルの解析の第一報が出始めた。第1の成果として、一般的な小惑星(既知の小惑星の4分の3を占める)であるリュウグウが、成分を分析すると、世界で9個しか見つかっていないCIコンドライトにそっくりだったことが挙げられる。CIコンドライトはあらゆる隕石(いんせき)の中で太陽の組成に一番近い「太陽系の標準物質」だ。それが小惑星の多数にあてはまるのだ。

飛行するはやぶさ2のイメージ=ドイツ航空宇宙センター提供
はやぶさ2が持ち帰った小惑星リュウグウの砂=JAXA提供

 他にも液体の炭酸水の発見や、多くの種類のアミノ酸、強い残留磁場の発見などがある。これらは、サンプルを採取しなければ分からなかった。なかでも水は、その同位体比が、彗星よりも遥(はる)かに地球の海に近く、両者に関係があるかもしれない。少なくとも、海(の一部)が45億年前に隕石からもたらされたかも知れないという仮説と矛盾はしない。海が始めから地球にあったと仮定するには、金星や火星との違い(海の痕跡はあるが当初から地球より遥かに少なかった)など、説明困難な問題があるのだ。成果は来年も出てこよう。

小惑星衝突実験

 小惑星がらみでは、NASAのDARTミッションという衝突実験が9月にあった。表向きは小惑星の軌道を変えるための基礎実験という形で宣伝されているが、その内実は

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