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新型コロナ「初夏から5類」に残るモヤモヤ感

「国産治療薬ゾコーバの強引な承認」と「医師会の不見識な対応」

川口浩 東京脳神経センター整形外科・脊椎外科部長

 政府は1月27日に新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付けを、5月8日より、現在の「新型インフルエンザ等感染症(2類相当)」から季節性インフルエンザと同じ「5類感染症」に変更することを正式決定した。

新型コロナの分類を「5類」に引き下げる方針について記者に答える岸田文雄首相=2023年1月20日、首相官邸
 2020年8月に故安倍晋三前首相が辞任会見で感染症法上の見直しに言及してから既に3年近くが経過している。当時から一貫して類型の引き下げを主張してきた私にとっては遅すぎる気はするが、今回の政府決定は喜ばしいことである。しかし、そのプロセスには釈然としないものが残る。

「高価な風邪薬」ゾコーバの強引な承認


 今回の決定の根拠のひとつとして、政府は「国産の治療薬が出来た」ことをあげている。厚生労働省は昨年11月22日、塩野義製薬の「ゾコーバ」を新型コロナウイルス感染症の治療薬として緊急承認した。緊急承認とは、その有効性が「推定」によって承認できる、昨年5月に新設されたばかりの制度である。ゾコーバの承認期限は1年で、追加データを求めたうえで再び審査される。しかし、この緊急承認に至る経緯には、コロナ禍という特殊性、国産初の経口薬というバイアスを勘案しても、多くの不可解な点が残されている。

 塩野義製薬は制度が出来た5月にさっそく緊急承認の申請をしたが、審査前から自民党の有力議員がSNSなどで強力に後押しをしていた。しかしながら、6月と7月に開かれた厚労省の薬事・食品衛生審議会では、「有効性を示すデータが不十分」として承認は見送られた。主要評価項目であるコロナ関連の12症状の改善効果が実証されなかったからである。ところが塩野義製薬はこの審議会において、5症状(鼻閉・咽頭(いんとう)痛・せき・発熱・倦怠感)に絞って事後解析したデータを追加提出して有効性を強調した。評価項目を変えて有利な結果を探るような解析方法について、当然、委員から厳しい批判が出た。にもかかわらず、この承認見送りに対して、日本経済新聞などの一部有力メディアが公然と疑義を表明した。

 塩野義製薬はその後、日本、韓国、ベトナムにおけるグローバル臨床治験の結果、作為的に選んだ上記の5症状の回復までの期間が実薬群ではプラセボ(偽薬)群よりも1日(24.3時間)だけ短くなった(約8日→約7日:実薬群167.9時間 vs.プラセボ群192.2時間)として、再申請を行った。これを受けて厚労省・医薬品医療機器総合機構(PMDA)は、「有効性を有すると推定するに足る情報は得られたと判断した」と結論づけ、昨年11月の審議会で緊急承認された。

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