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接骨院のドル箱「交通事故診療」を考える

被害者は接骨院と医療機関に並行受診出来るのか?

川口浩 東京脳神経センター整形外科・脊椎外科部長

 我々整形外科の領域には医業類似行為が蔓延(まんえん)している。その規模は巨大で、年間約4,800億円が公的医療保険として支出されている。中でも柔道整復(柔整:接骨院・整骨院)には約3,100億円が支出されている。この額は、産婦人科や皮膚科の年間医療費に匹敵する。

柔整の不正請求と健康被害

 本来、柔道整復術とは、その名の通り「骨折・脱臼を整復して治す技術」であり、柔整が扱える傷病は「外傷性の明らかな骨折、脱臼、打撲、捻挫」に限定されている。ところが、厚生労働省が公表した柔整療養費の疾病別内訳では、捻挫(66%)と打撲(33.8%)が療養費のほとんどを占めており、骨折・脱臼は合わせても0.17%に過ぎない。その背景には、外傷がなくても痛みを訴える多くの患者が、捻挫や打撲の傷病名の下に患部を冷やしたり温めたり電気をあてる施術を受けているという事実が存在する。例えば、腰痛は「腰椎(ようつい)捻挫、腰部捻挫」という病名とされている。最近、これらの「不正請求」に対して行政のメスが入り始めている。

 一方、我々医療者が看過できないのは、柔整において適切な診断がされないまま漫然と施術が続けられることによって生じる患者の「健康被害」である。日本臨床整形外科学会が129の医療機関を対象に行った実態調査では、医業類似行為にかかわる健康被害は、5年間で1,177例に上った。もちろん、この数字は氷山の一角だろう。

接骨院と医療機関の並行受診

「医師のための保険診療基礎知識(2019年改訂):医業類似行為関連Q&A」(日本整形外科学会)より
 現在、整形外科医が柔整への対応のバイブルとしているのは、日本整形外科学会が全会員に配布した冊子「医師のための保険診療基礎知識(2019年改訂):医業類似行為関連Q&A」である。この冊子の最後のページには、「接骨院(整骨院)に行ってもいいですか?」と患者さんに言われたら?→「同じ病名で接骨院と医療機関を同時にかかることはできないので、当院での治療は終わりになります」(図)の漫画がある。これを根拠として患者が接骨院を受診することを禁止した整形外科医も少なくない。
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