なぜここまで再選にこだわるのか
2020年10月17日
11月のアメリカ大統領選までいよいよあと3週間となった10月11日、ドナルド・トランプ大統領はFOXニュースのインタビューで「自分は(COVID-19/新型コロナウイルス)陰性になり、免疫ができた」と宣言した。ホワイトハウスのショーン・コンリー医師は「大統領は、もう他者に感染させる危険はなくなった」と発表したものの、多くの専門家たちはそれに疑問を投げかける。
CDC(疾病対策予防センター)は、COVID-19の最初の症状が現れてから10日経過したことを、感染力がなくなる目安の一つとして挙げている。だがスタンフォード大学のウイルス研究所の所長、ベンジャミン・ピンスキー医学博士はCOVID-19に関する限り、「いったん感染した患者がいつまで感染力があるのか、正確に判定できる検査は、現在まだ存在しない」と明言している。
トランプ大統領は、10月2日にウォルター・リード軍病院に入院し、わずか3日後の5日に退院。ホワイトハウスの前で聴衆に向かって演説をし、早急に選挙活動に戻ると宣言した。
一流の医療スタッフがモニターしているとはいえ、74歳という高齢で肥満気味であることを考えると、彼の行動は無謀としか思えない。新たなクラスター発生の危険もある。
COVID-19の対応、あまりのマナーの悪さで顰蹙をかった討論会、そしてホワイトハウスでのクラスターなどで、トランプ大統領の支持率は下降線をたどってきた。現在では民主党バイデン候補に10%以上のリードを許しているとの世論調査が出ている。
トランプは、これまで様々な手段を使って民主党支持者へのあからさまな投票妨害を試みてきた。さらには、たとえ選挙で負けても「平和的に」権力を移行させるかどうか、わからないと公言している。白人至上主義武装団体の「プラウドボーイズ」に、「下がって待機せよ」と言及するなど、トランプが選挙で敗北したあかつきには米国で内戦が勃発する可能性を真剣に懸念する声もある。
いったいトランプ大統領は、なぜここまでなりふり構わず再選にこだわるのか。彼が本当に本人が主張するような「成功したビジネスマン」なのであれば、ホワイトハウスを退いても悠々自適の優雅な引退生活が待っているのではないか。
だが実は、ドナルド・トランプ氏には何が何でも再選しなくてはならない理由がある。
「彼が大統領の地位を失ったら、起訴されて有罪判決を受け、刑務所に送り込まれることを恐れているのです」。MSNBCのインタビューでそう語ったのは、トランプの著書『The Art of the Deal』(邦題『トランプ自伝――不動産王にビジネスを学ぶ』)のゴーストライターを務めた、トニー・シュワルツである。
1985年の末から、本の執筆のため18カ月、ほとんどの週末をトランプと一緒に過ごしたというシュワルツは、「一緒にいてすぐに、彼は平気でどんな嘘でもつく人間だということに気がついた。でも仕事だからと割り切って書いたのです」と語る。だが当時は、まさか彼が米国の大統領になるとは夢にも思っていなかった。彼の資質が国政に影響を与えている現在、この仕事を受けたことを心から後悔しているのだという。
過去30年間で、ドナルド・トランプ氏は公私合わせて何と3500件もの告訴をされている。実は筆者も個人的に、20年ほど前に彼にフィー(手数料)を踏み倒されたというマンハッタンのコンサルタントを知っている。「弁護士でも雇ったらどうだ。そのほうが高くつくぞ」と捨て台詞を吐かれたそうである。ちなみに彼は取り立てを断念したので、この3500件の中には入っていない。
ホワイトハウス入りしてからもトランプには常に黒い疑惑がついて回ってきた。
有料会員の方はログインページに進み、デジタル版のIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞社の言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください