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2014年どうなるTPP交渉(下) 三つのシナリオ

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

 シンガポール会合で実質合意はなぜできなかったのか? 答えは簡単である。各国とも、これが最後のカードを切るような場ではないと認識していたからだ。多国間の交渉が妥結するためには、参加国のほとんどがこの機会を逃がすと合意はできない、これが最後の機会だという共通の認識を持つことが必要である。

 ガット・ウルグァイ・ラウンド交渉では、何回か最終合意の機会を失ったが、最後にこれしかないと参加国が認識したのが、1993年12月15日だった。この最終期限は、アメリカ政府が連邦議会から交渉権限を授権されたファスト・トラック法(今のTPA)によって決められた。最後まで農産物の関税化(輸入数量制限を関税に置き換えること)を拒否していた日本は、その1日前の午前4時、細川総理(当時)が、コメだけ関税化しない代わりに、一定量のコメ輸入(“部分開放”と言われた)の受け入れを表明したことで、ウルグァイ・ラウンドは終結した。

 残念ながら、今アメリカ政府はTPAを持っていない。いくらフロマンUSTR代表が2013年合意を目指しても、「TPAを持たないアメリカ政府と真剣に交渉できるか」というのが、日本を含む参加国の認識だったのだろう。

 民主党には交渉力はないが、自民党には交渉力があるからTPPに参加しても聖域は確保できると、安倍総理が選挙で大見えを切った以上、日本は農産物関税で一切譲歩できない。農産物関税で譲ることは、安倍政権の崩壊につながりかねない。それくらいなら、TPPを壊す、つまり交渉から離脱した方がよいという意見も、政権中枢にはあるとも聞く。カードはある(「コメは安楽死するしかない!? 外れてほしかったTPP交渉予想」参照)が、この機会を逃すとTPP交渉が壊れてしまうというギリギリの段階までいかない限り、それは切れない。

 では、TPP交渉はいつ妥結するのか?三つのシナリオが考えられる。

 一つは、アメリカは、2014年3月にはTPAを取得できるかもしれない。4月にはオバマ大統領のアジア諸国歴訪が控えている。となれば、4月までにTPP交渉妥結というシナリオが考えられる。日本は、コメだけ関税を維持して無税のTPP枠を設定、他の農産物の関税撤廃というカードを切る。農産物の関税維持という衆参の農林水産委員会等の決議はあるが、拘束力はない。ウルグァイ・ラウンドのときは、コメは一粒たりとも入れないという衆参本会議の決議があったが、部分開放に踏み切った。しかし、公約を実現できなかった安倍総理は、TPP参加を政権の成果として、退陣する。自民党としても、安倍総理の靖国参拝で日米関係を損なってしまったので、政権の顔を変えた方がよいという考えも出てくるだろう。

 二つ目は、4月までにTPP交渉妥結という点では同じだが、衆参の農林水産委員会や自民党のTPP委員会の決議に従う形で、農産物の関税を維持できなかった日本は、交渉から離脱する。オバマ大統領が来るというだけでは、 ・・・ログインして読む
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筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

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