2016年11月02日
10月31日の環太平洋経済連携協定(TPP)の国会質疑を見た。質問するほうも答弁するほうも的を外しているようだ。
まず、米のSBS米の調整金問題について、政府の調査と、日本農業新聞などのマスコミの調査との食い違いが野党議員から執拗(しつよう)に追及され、農林水産大臣は民間の調査にコメントする立場になく、政府側の再調査は必要ないと答弁した。
この答弁に満足しない質問者がさらに大きな声を張り上げて、再調査を求めるというシーンが繰り返された。
政府の立場に立てば、いくら恫喝(どうかつ)されても自己の調査の合理性・正当性を主張して譲らない農林水産大臣の対応は立派である。
しかし、問題の本質は、野党議員が攻めているような調整金の授受自体にあるのではない。
輸入米価価格の偽装をめぐる本当の問題とは何か(WEBRONZA)
輸入業者が政府に申告していた高い輸入米価格と実際の価格との差を、調整金として卸売業者に渡し、卸売業者は実需者に、調整金の全部、または一部だけ安く値引き販売していたのではないかというのが、問題の発端である。これが事実だとすると、農林水産省が、輸入米と国産米との価格差がないのでTPPで輸入米が入っても問題はない、と説明していた前提が崩れてしまう。
問題の本質は、この農林水産省の説明が間違っていることなのだ。
輸入米と国産米とでは品質格差があるので、国産米より安く売らないと輸入米はさばけない。野党が真実だとする日本農業新聞の記事自身が、品質格差を前提としたこのような米業者の行動を報道しているのだ。業者が輸入価格を不正に申告していた調整金問題は、この品質格差を明るみに出したにすぎない。
次に、食品の安全性について、牛肉の肥育ホルモンや塩酸ラクトパミンという薬剤が、アメリカ、カナダ、豪州では国産にも輸入にも認められ、EU、中国、ロシアでは国産にも輸入にも禁止されているにもかかわらず、日本では国産には禁止されている一方、輸入牛肉には認められているのはダブルスタンダードだ、という観点から質問が行われた。
まず、これらの肥育ホルモンや薬剤を使用しているかどうかの表示義務をかけて、消費者が選べるようにすべきではないかという質問に対し、食品安全問題担当大臣は、これらは牛に投与されたのち排出され、牛肉からは検出できないので、使用しているかどうかの表示が正しいかどうかを検証できないので困難だと答えた。
次に、肥育ホルモン等を使用した牛肉がどれだけ輸入されているのかという質問について、厚生労働大臣のすれ違い答弁が続き、これに納得しない質問者が同じ質問を繰り返した結果、厚生労働大臣が最後に、何トン輸入されているか把握していないと答弁した。これに対して質問者は、そんなことも調べていないのは問題だと追及した。
しかし、食品安全問題担当大臣の答弁にもあるように、肥育ホルモンは牛肉から検出されないのだ。検出されないものをどうやって検査できるのだろうか。
厚生労働大臣は堂々と検査できないものは検査できないと答えればよかったのだ。もし私が厚生労働大臣だったら、そのうえで次のように付け加えるだろう。
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