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「入院制限」では感染爆発・医療崩壊の危機を突破できない

病床増設と接触削減に総力を

小此木潔 ジャーナリスト、元上智大学教授

与野党の批判浴び、修正すれど撤回せず

 2日の関係閣僚会議で菅首相は、次の通りメモを読み上げた。

 「重症患者や重症化リスクの特に高い方には、確実に入院していただけるよう、必要な病床を確保します。それ以外の方は自宅での療養を基本とし、症状が悪くなればすぐに入院できる体制を整備します。パルスオキシメーターを配布し、身近な地域の診療所が、往診やオンライン診療などによって、丁寧に状況を把握できるようにします。そのため、往診の診療報酬を拡充します。家庭内感染のおそれがあるなどの事情がある方には、健康管理体制を強化したホテルを活用します。さらに、重症化リスクを7割減らす画期的な治療薬について、50代以上や基礎疾患のある方に積極的に投与し、在宅患者も含めた取組を進めます」

 首相は翌3日、日本医師会の中川俊男会長を官邸に招いて協力を要請した。これに対し中川氏は中等症でも医師の判断で入院できるようにすべきであると注文を付けるとともに、緊急事態宣言の対象地域を全国に拡大するよう求めた。

 野党の立憲民主党は3日に枝野幸男代表が「今の政権にこれ以上危機管理をさせていたら、国民の命を守れない」と述べ、4日には「中等症患者も入院という従来の原則維持を」と田村憲久厚労相に申し入れた。

 自民党も4日に党本部で開いた新型コロナウイルス感染症対策本部とワクチン対策プロジェクトチームの合同会議で不満が噴出し、入院制限の撤回を求めることになった。

 首相はこれらを受けて「国民の命と健康を守るため必要な医療を受けられるようにする措置」と繰り返し、批判には丁寧に説明して理解を得ると述べた。また、最後は医師の判断に委ねるとしたが、入院制限そのものは撤回しない姿勢を示した。

 田村厚労相は5日の参院厚労委員会の閉会中審査で、「中等症は当然入院」と述べた。厚労省は3日付で全国の都道府県などに出した入院制限に関する事務連絡を5日付で修正し「酸素投入が必要な者」を入院可とし、入院は「医師の判断」で決めるとしつつも、「医療には限界がある」などと入院制限の骨格は変えず、撤回はしていない。

拡大菅義偉首相との意見交換を終え、取材に応じる日本医師会の中川俊男会長=2021年8月3日午後、首相官邸

解決策どころか医療崩壊を促進

 政府が打ち出した「入院制限」政策は、危機の解決策にならないどころか、事態を悪化させ、医療崩壊を促進してしまう危険性が大きい。

 入院すべき患者に自宅療養させていれば、容体の急変に気づくのが困難だ。軽症者に対する適切な医療措置ができず、重症者が増えるのは避けられない。さらに、家庭内感染がますます増えて感染爆発を加速してしまうだろう。

 往診やオンライン診療などの体制を整えるというが、絵に描いた餅にすぎない。埼玉医科大学総合医療センター総合診療内科の岡秀昭医師も「今回の政策は感染者を増やすことにつながるのでは」「非常に危険な勇み足」と述べている(2021年8月5日付AERA dot.)。

 首相は、重症化を防ぐ目的で新たに厚生労働省が特例承認した抗体カクテル療法について、7月30日の記者会見でも、「政府として十分な量を確保しており、50代以上の患者に加え、基礎疾患のある方に積極的に供給し重症化を抑えていく」と述べた。

 さらに8月2日には在宅患者への投与にも意欲を示した。だが、抗体カクテル療法は2種類の抗体医薬品を点滴で投与するもので、入院しなければ無理だ。

 現実は、菅首相の言動とは裏腹に自宅療養の危険をすでにますます明確に示している。フジテレビのFNNプライムオンラインが5日午前に報じたところによれば、8月に入って都内で自宅療養中の8人(30~50代)が死亡していたことがわかった。去年12月から7月までの8カ月間で11人だったという。都内の自宅療養者は4日には1万4783人を数え、一カ月で13.5倍に急増していることが死者急増の背景にある、と伝えている。

筆者

小此木潔

小此木潔(おこのぎ・きよし) ジャーナリスト、元上智大学教授

群馬県生まれ。1975年朝日新聞入社。経済部員、ニューヨーク支局員などを経て、論説委員、編集委員を務めた。2014~22年3月、上智大学教授(政策ジャーナリズム論)。著書に『財政構造改革』『消費税をどうするか』(いずれも岩波新書)、『デフレ論争のABC』(岩波ブックレット)など。監訳書に『危機と決断―バーナンキ回顧録』(角川書店)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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