2011年10月08日
どこを探してもそんな短編はない。いろいろ斜め読みするうちに、ありましたね。記憶とピッタリ一致する一編が。タイトルはまったく違う。「我らの時代のフォークロア――高度資本主義前史」。でも、この記憶違いが示唆したものが、実は、デビュー作『風の歌を聴け』に魅入られて以来、時に好き嫌いはあっても、春樹の作品に、ずいぶん長く付き合ってこられた理由なのかもしれない、などと思ってしまった。
短編集『TVピープル』に収められた問題の短編は、語り手の僕が、60年代の高校時代にクラスで最も成績優秀だった男女カップルの恋愛の奇妙な行く末を、二十数年後、偶然再会したその片割れ男性から明かされる、という物語だ。文中に僕(春樹と同じ49年生まれ)が「明日もしれぬワイルドな空気」に満ちたと書く、60年代の新旧が交錯する性倫理観を背景にした物語は、様々な読み方が可能だろうが、間違った記憶の「タイトル」が示す通り、単に少し変わった「青春恋愛小説」と読み込み、自ら脳の記憶庫にしまい込まれていたわけだ。
友人に春樹の作品で何が好きかと問われれば、
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください