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天才ジョン・フォード監督の『静かなる男』をめぐって(下)――難航した製作過程、ドキュメンタリー『映画の巨人』など

藤崎康 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

 1950年代のジョン・フォードは、すでに巨匠としての名声を確立していた。しかし、にもかかわらず、彼の心の故郷アイルランドを舞台にした、いわば彼の“プライベート・フィルム”である『静かなる男』の資金繰りは難航した。

 本作の製作に乗り気だったのは唯一、B級映画プロダクションのリパブリック社のみであった。幸運にも、この映画会社にはジョン・ウェインが所属していたのだ。

 が、それでもリパブリック社の社長H・イエーツは、『静かなる男』の前に“儲かる”低予算モノクロ西部劇をフォードに撮らせた。やはりジョン・ウェイン、モーリン・オハラ、ヴィクター・マクラグレンの出演した『リオ・グランデの砦』だが、これが何とフォードの最高傑作の一本となったのだから、彼の映画的才腕にはあらためて驚嘆させられる。

 なお、当初イエーツ社長は製作費を抑えようとして、テクニカラーの使用にも反対したが、結局のところ、アイルランドの地方色をカラーで描きたいというフォードの意向が通った(『静かなる男』の大部分は、西アイルランドの海岸近くの村、コングでロケーションされたが、スタジオ内のセットで撮られた屋外シーンもある)。

 ところで、ショーンとメアリー夫婦のセックスを暗示するところ、すなわち乱れたベッドのシーツを見たミケリーン/バリー・フィッツジェラルドが、「モーレツ!」と言うシーンが

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