日本映画の国際映画祭出品ラッシュの総仕上げ
2018年06月07日
実は、今回のカンヌ国際映画祭で是枝裕和監督の『万引き家族』が受賞することを、個人ブログでカンヌが始まった直後に予測していた。しかしまさか最高賞のパルム・ドールとは思わなかった。1946年に始まったカンヌ国際映画祭での最高賞は、1954年の『地獄門』(衣笠貞之助監督)以来、日本の監督でわずか5回。前回が1997年の『うなぎ』(今村昌平監督)で21年前。最近隆盛を極めるアジア映画で考えても、今世紀は2010年のタイ映画『ブンミおじさんの森』(アピチャッポン・ウィーラセタクン監督)だけだから、いかにこの受賞が稀であることかわかる。
海外メディアにとってもこの受賞はとても驚きだったようで、英紙「ザ・ガーディアン」は最高賞を「意外な結果」として、監督賞を取った『ブラッククランスマン』(スパイク・リー監督)、審査員賞の『カペナウム』(ナディーン・ラバキー監督)、無冠の『バーニング』(イ・チャンドン監督)の3本が最高賞にふさわしかったと書いた。米「ニューヨークタイムズ」は女性監督の『カペナウム』に最高賞が行くものと思っていたと書く。星取表でも世界の10媒体の平均点の1位は『バーニング』だし、仏の15媒体の1位は『夏』(キリル・セレブニコフ)だった。
カンヌ、ベルリン、ベネチアの3大映画祭すべてでも、日本映画が最高賞を取ったのは今回を含めて10本。そもそも全世界から20本前後しか選ばれないコンペへの出品自体が大変なことだし、監督賞など何か賞をもらえたらほとんど僥倖に近い。特に21世紀になってからはカンヌがほかの映画祭に比べて圧倒的優位に立ってきたので、カンヌはコンペでなくてもとにかくどこかの部門に出すだけでも大変なのだ。
振り返ってみると、戦後の日本映画の国際映画祭における出品・受賞ラッシュは、1951年のベネチアの黒澤明監督『羅生門』に始まり、50年代から60年代初頭は黒澤明、溝口健二を始めとして衣笠貞之助、稲垣浩、今井正らが続いた。1970年代から90年代にかけて大島渚、今村昌平も活躍するが、50年代に匹敵するのは90年代半ばから現在まで続く4K=北野武、黒沢清、河瀨直美、是枝裕和+α=宮崎駿、三池崇史、塚本晋也(ベネチア)、SABU(ベルリン)の時代だろう。
林瑞絵 是枝裕和『万引き家族』がカンヌで受賞した理由――有力メディアでのネガティブな意見も、圧倒的な好評の前に駆逐された
林瑞絵 林瑞絵 『万引き家族』の祝辞に表れた日本政府の無理解――歴代フランス大統領は作品内容に一歩踏み込んだコメントを出してきたのだが……
この文章では、なぜ是枝監督が4K+αのなかで唯一カンヌの最高賞を射止めることができたのかを探ってみたい。大きく言うと、私は3つの奇跡的な理由が重なったと思う。1つは今年のカンヌで極めて政治的、社会的関心が高かったことである。
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